日本のカレーの進化が止まらない。カレーも、そのカレーを作る人も、より独自の道へ。「らしさ」を謳歌する5軒を紹介する。
NEW GENERATION 05
ハブモアカレー
2015.OPEN
カラフルなプレートに心躍らせつつ、ひと匙口にすれば野菜のうま味がじわり。優しい余韻が続く。同時に、どこか尖ったコンセプトも光る。ソフトなのにシャープ。ハブモアカレーの独自性は、シェフの松崎洋平さんが留学先のサンフランシスコで味わったアジア料理に原点がある。「ベトナミーズやチャイニーズが、アメリカっぽくローカライズされている、その感覚自体が面白くて、今も忘れられません」
外国料理の正確な再現ではなく、ソウルフード的にジャパニーズカレーを意識するのとも違う、その両方を俯瞰するようなアプローチのルーツはアメリカでの食体験にあった。のちの旅行で松崎さんの琴線に触れたのは、例えばマレー料理に影響を受けた中華。そのアンテナはつねに「食文化の混交」をとらえてきた。野菜を多用する現在のスタイルを創作するきっかけをくれたのは、中学校の同級生。千葉県で農園「キレド」を営む栗田貴士さんだ。彼が育てる野菜の多様さ、おいしさに感銘を受け、ともすれば素材の味を隠しかねないスパイスと、野菜本来の味わいとを両立させるカレーを目指した。すべてのカレーのベースに使っているのは野菜の出汁、ベジブロス。通奏低音のごとく全体の味わいのキーとなっている。最近の定番素材は白菜。「白菜のインド風ポタージュ」に使うスパイスは、マスタードシードのみ。シンプルなスパイス感と野菜のうま味によってひと品として成立し、他のカレーと混ぜても良し。こうした絶妙なバランスがシャープな印象の源なのだろう。
カレー以外で興味深いのが、店内BGM。低音域を意図的にカットしているという。「低音の強い音楽が鳴っていると、食事がおいしくなくなると以前から思っていたところ、似た結論の研究があることを知り、やっぱり!と」店内の快適な居心地は、さりげなく、しかし緻密に演出されており、ソフトなのにシャープなカレーの味わいにも相通じる。この「ハブモアっぽさ」こそ、料理にとどまらない松崎さんの仕事のたまものだ。
text ワダヨシ、田嶋章博 photo 本多 元
本記事は雑誌料理王国2020年6・7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年6・7月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。