追及して辿り着いた6席限定というスタイル「ペリグリーノ」


嘘偽りのない料理を提供したい。追究して辿り着いた席限定というスタイル

ペレグリーノ 高橋隼人さん

“自分探しの旅”で見つけた料理人の道

恵比寿の「ペレグリーノ」といえば、予約が取りにくいことで知られる店。客席は6席のみで、回転なしの完全予約制、さらに営業は週に4日となれば、無理もない。

「西麻布に店があった頃は、席数は今の倍12の席。料理を作るのは僕ひとりですから、手が回らなくなってしまったんですね。自分自身が最高だと思える料理を提供するためには、と考えて、徐々に稼働する席数を減らしていきました」とオーナーシェフの高橋隼人さん。多くの店があるなかで自分の店を選んでくれた人に対して、誠実に向き合いたいと模索した結果が現在のスタイルだ。

高橋さんの経歴はユニークで、初めて包丁を持ったのはニュージーランドの日本食レストランだという。

「当時流行していた“自分探しの旅”に出たんです。遊び呆けていたらお金がなくなってしまって、仕方なく始めたのが日本食レストランでのアルバイトでした。皿洗いという名目だったのですが、人手不足だったのか、色々な作業をさせられて。そこで、フレンチやイタリアンの修業をしていた先輩と知り合って、初めて料理に興味を持ったんです」

この出会いが、高橋さんの人生を大きく変えるきっかけとなった。

修業先に選んだのは食の都・パルマ

帰国後、都内や徳島、さらに二度目のワーキング・ホリデーで訪れたカナダなど各地のイタリア料理店で修業を重ねたのち、イタリア北部に位置するエミリア・ロマーニャ州へ渡った。

「できる限り、お客さまには自分自身が最高だと思う料理を出したい――そう考えたときに、ピッツァは手が追いつかない。また、南イタリアは魚介類を豊富に使いますが、僕の中で、魚介を使って和食を超える料理を作るのは難しいと感じました。だったら、肉料理がメインの北イタリアの料理を学ぼうと、つてを辿って紹介していただいたんです」

食の都・パルマでの数々の出会いは、高橋さんを大いに刺激した。これは余談だが、パルマで口にするまでは、生ハムは苦手だったのだとか。

愛農ナチュラルポークのロースト
最近注目しているという「愛農ナチュラルポーク」は、三重県の愛農高校の養豚部が飼育する豚。「初めはただきれいな味だなとしか感じなかったのですが、繰り返し調理するうちに本当のおいしさに気づきました」

すべての工程を含めて“ひと品”が完成する

現在、「ペレグリーノ」では、料理およびワインなどドリンクのペアリングも含めて、すべて“おまかせ”。ひとつひとつ丁寧に選んだ素材を使い、パルマの郷土料理をベースに作られるメニューは9~10品。すべての料理は、どの席からも目に入るように設計されたキッチンで作られる。

食材に応じて内容は変動するが、1品目には、エミリア・ロマーニャ伝統のパスタ、カペレッティを浮かべた鶏のブロードが必ず登場する。

ブロードに使用するのは、長野県で飼育されているぎたろう軍鶏だ。丸鶏と水、塩のみを鍋に入れたら、沸騰させないように気を配りながら煮込むこと13時間。シンプルだからこそ、凝縮されたふくよかな鶏の旨味、鼻を抜ける香りに驚かされる。

一方、カペレッティはパスタマシンで生地を伸ばし、具材を包んだらブロードの中へ。パフォーマンスはない。だが、高橋さんが新たな料理を作り始めるたびに、客はこの食材はどう料理されるのか、どんな味がするのだろうかと想いを巡らせ、心を躍らせる。

「キッチンの様子が見えなければ、あらかじめ用意したものを『できたて』と言うこともできてしまいます。だけど僕は、つねに嘘のない自分でありたい。できたての料理をお出しするのはもちろんですが、料理を作る工程や音、香り、ワインとの組み合わせ……すべての要素を含めて、初めてひとつの料理が完成すると考えているんです」

食材の持ち味をダイレクトに伝えることに焦点を当てているため、どの皿も必要以上に飾り立てず、シンプルに仕上げる。だからこそ、口にしたときの驚きや感動も大きい。

主役となる食材の選び方はさまざまだが、最近になり国産の上質な食材に目を向けるようになったという。「今まではガツンとした味わいの海外の黒豚を使っていたんですが、三重県で生産されている『愛農ナチュラルポーク』を知ってから、国産の食材の魅力を再認識しました。おいしい食材は、まだまだたくさんあります。自分の価値観で物事を決めつけることなく、自然体で料理を作り続けていきたいですね」

長野県伊那産ぎたろう軍鶏を丸ごと一羽煮出したブロード
パルマ伝統の小さなラヴィオリ“カペレッティ”と共に
店の基盤ともいうべきブロードは、スターターとして登場。
その日仕入れた軍鶏の脂の量や、その日のメニューに合
わせて、硬水と軟水を使い分けているという。カペレッテ
ィの具材はメニュー構成に応じて変わる。

Hayato Takahashi
1978年生まれ。ワーキング・ホリデーで訪れたニュージーランドでのアルバイト経験を機に料理人を志す。その後、国内のイタリア料理店を経て渡伊。エミリア・ロマーニャ州パルマのレストランにて研鑽を積み、 2009年に自身の店「ペレグリーノ」をオープン。修業先で学んだパルマの郷土料理や生ハムなどで評判を呼ぶ。より自分らしいスタイルで最高の料理を提供するべく、2015年に恵比寿へ移転し、現在に至る。

河西みのり=取材、文 林輝彦=撮影

本記事は雑誌料理王国274号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は274号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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