勤めていた都内の高級リストランテのローマ人のシェフが言った。「ミウラ、修業に行くならエミリア=ロマーニャ州にしろ」。理由は聞かなかったが、その言葉に従った。
「行ってみて驚きました。修業先で出すパスタは、ほとんどが手打ち麺。おまけにひと言では説明できないほどのこだわりがあった。日本では高級店でも乾麺が普通でしたから、見るものすべてが興味深かった」と三浦さんは20年前を振り返る。
ミラノでパスタ職人をしていたという近所のマンマと仲よくなり、手打ちパスタのいろはを教えてもらったのも、三浦さんのパスタ熱に拍車をかけた。
エミリア=ロマーニャ州は、イタリアのなかでも手打ちパスタ作りが盛んな地域だ。かつての上司は三浦さんに、他では体得できない手打ちパスタの奥深さを伝えたくて、この地を推薦したのかもしれない。
帰国する頃には、「手打ちパスタで勝負する」と心に決めていた。
2003年に「イル・グラッポロ・ダ・ミウラ」をオープン。以来、パスタは他人に打たせたことがない。「パスタ作りは天候や温度に左右されやすい。だから1週間ごとに粉や卵の量を変えます。梅雨の時期なら、粉1キロに対して、全卵が8個、卵黄2個が目安です」
パスタを打つ台の横には、温度計と湿度計を置き、管理を徹底する。
パスタのコシを出すためには、グルテンが欠かせない。そのためにはしっかり練ることが基本だが、大量の材料を人の手で練るのは現実的ではない。そう考えて、機械を特注して設置した。
修業先で知り得た知識とノウハウをベースに、経験と感性で独自の技を磨き上げてきたつもりだ。それは、ラグーについても同じである。
「細長いリボン状のパスタ、タリアテッレに負けないしっかりした味のボロネーゼを追求していくうちに、鶏レバーやプロシュート、ボローニャのソーセージ、モルタデッラなども加えるようになりました」
「生パスタならミウラ」と太鼓判を押すファンは多い。パスタに魅了され、美容師から転身してまでパスタを打つ三浦さんの面目躍如である。
タリアテッレのしっかりとした食べ応えと、ボロネーゼの濃厚な味わいがぴったりと合ったひと皿。コシはしっかりしているけれど、喉ごしはつるりとしたタリアテッレ。甘みがほとんどなく、深い味わいではあるけれど決して重くないボロネーゼ。15年余の研究成果が、おいしく表現されたパスタである。
ラグー
牛肩あら挽き…1㎏/赤ワイン(マルケ州の赤)…1㎏/ドライポルチーニ…80ℊ/鶏レバー…100ℊ/モルタデッラ…30ℊ/プロシュート…30ℊ/タマネギ(フライパンでソテーする分)…1個/タマネギ…1個/ホールトマト…1㎏/ブロード…1ℓ/塩、コショウ…各適量/ナツメグ、シナモン…各適量
仕上げ用
パルミジャーノ・レッジャーノ、バター…各適量
ソフリット
タマネギ…1個/ニンジン…タマネギの半量/セロリ…タマネギの半量
タリアテッレ
小麦粉(00粉)…800ℊ/セモリナ粉…100ℊ/強力粉…100ℊ/全卵…8個/卵黄…2個/塩…少々
1.ラグーを作る。牛肩あら挽を焼き、十分に赤ワインを含ませて、1日ねかせる。
2.タマネギのソテーとソフリットをあらかじめ作っておく。
3.ドライポルチーニを水でもどしておく。
4. 3のドライポルチーニ、鶏レバー、モルタデラ、プロシュート、タマネギをきざむ。
5. 1、2、4をすべて鍋に入れ、ホールトマト、ブロード、塩、コショウ、ナツメグ、シナモンを加えて、5~6時間煮込む。
6.でき上がったラグーは鮮度を保つために小分けにして冷凍する。
7.タリアテッレを作る。材料を機械でこねてグルテンをしっかり出す。1日ねかせたパスタを手でのばしたのち、パスタマシンに通して厚さ1 ~1.2㎜までのばす。幅8㎜ほどに切って、1日冷凍する。
8.仕上げをする。バターを入れたフライパンに温めたラグーを入れてソテーし、パルミジャーノ・レッジャーノをたっぷり入れる。
9.タリアテッレをゆでる。ゆで上がったら8に入れて、ラグーとタリアテッレをしっかり和える。
10. 9を皿に盛り付け、上からパルミジャーノ・レッジャーノをたっぷりかける。
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山内章子=取材、文 星野泰孝=撮影
本記事は雑誌料理王国第240号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第240号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。