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「イタリア料理とは?」に見つけた自分なりの答え。「イル プレージョ」岩坪滋さん


「こうあるべき」と気負わず自分が作る料理に誇りをもつ

イル プレージョ 岩坪滋さん

ずっと思い描いていた料理人の道へ

「これまでずっとイタリア料理を学んできて、今もイタリア料理に携わっている自分が作るのだから、これがイタリア料理だと胸を張って言える。それでよいのだと、今は思えるようになっています」

代々木上原で「イルプレージョ」のオーナーシェフとして日々腕を振るう岩坪滋さんが、料理人になることを初めて意識したのは中学生の頃。その当時は漠然と物づくりをする人に憧れ、思い浮かんだのが料理人だった。高校へ進学し、卒業後の進路を選択することになった時、再び料理人になることが思い浮かんだため、「エコール辻東京」への進学を決めたという。

そんな岩坪さんにとって、その後の人生を決定づけることになった経験がある。学生生活最後の夏休みに、それまでアルバイトで貯めたお金をつぎ込んで向かった、イタリアへの単身旅行だ。往復のチケットのみを手配し、時刻表や地図を頼りに2週間かけて各地をまわった。

「どのジャンルの料理を選ぶにしても、その料理が生まれた場所で過ごすべきだと思っていました。イタリアの行く先々で特産品や郷土料理に触れて、自分はこの料理に関わっていくことになると思いましたね」

「イタリア料理とは?」に自分なりの答えを見つけた

最初の修業先が、日髙良実シェフ率いる「アクアパッツァ」だったことの影響は大きいと岩坪さん。

「日髙シェフは、イタリアの郷土料理へのリスペクトを残しながら、日本の旬の素材を積極的に取り入れる手法を独自に展開していました。向こうで学んだことをそのまま再現しようとするのではなく、シェフ独自の表現へと昇華させた、そこにしかないイタリア料理が確立されていました。イタリア帰りの腕も知識もある先輩たちからはイタリアの話が聞けるし、日本中の食材がどんどん集まってくる。その刺激は相当なものでしたね」

その後イタリアへ渡り複数の州で修業を積み、3年間でほぼすべての州へ足を運んで現地の郷土料理を食べ歩いた。帰国後、いざ自分の店を出そうとなった時に考えたのは、「自分の料理」をやろうということだったという。

「イタリア料理というと、やはり郷土料理が根幹にあります。その土地で育った人が、その土地で手に入る食材を使ってその土地のシンプルな調理法で作って食べるもの。その考え方を大事にすればいいのかなと。これまで学んできたことを大切にしているし、イタリアに感謝している。

そんな自分が作るなら、それがイタリア料理でいいじゃないかと」

カボチャとフォアグラ 濃厚に 軽やかに
ヴィンコットで和えたフォワグラのテリーヌと乾燥イチジクを、エスプーマを用いてムース状に仕立てたカボチャで上下から優しくサンド。そこに、アンフュゼを施し泡立てたローズマリーの香りとアマレッティの香り、さらに食感が重なる。

そう思えるようになったのは、ここ2〜3年のことなのだとか。わかりやすい例では、再構築料理に対する考え方。気張って作っていた頃もあるが、今は選択肢のひとつとしてとらえられるようになったという。

岩坪さんが自身の基礎となるひと皿に選んだのは、カボチャとフォワグラ、乾燥イチジクを用いた料理。オープン時から、少しずつ見直しつつ提供している料理だ。

「イタリア料理を軸にしながら、この店のコンセプトを表すようなものを作ろうと考えて生まれたのがこの料理です」

ロンバルディア州のモルターラでは、ガチョウに乾燥イチジクのみを与えるという伝統的な手法でフォワグラが生産されている。同州のマントヴァ周辺にはカボチャを使った郷土料理が多い。そこからインスパイアを受け、乾燥イチジク、フォワグラ、そしてカボチャをひと皿の上に集約させた。エジプト人の食文化から着想を得てイタリア人が完成させたフォワグラ。今やインターナショナルな食材となっているその起源はイタリアにある、というメッセージも込められている。

一方、自身の今を表す料理は「トルテッリーニ・イン・ブロード・ディ・プロシュート」。ブロードにラビオリを浮かべたボローニャの郷土料理「トルテッリーニ・イン・ブロード」から着想を得て、バージョンアップさせているのが興味深い。

「生ハムからとったブロードの香りと、いぶりがっこの燻香の相性がよいです。シンプルだけど自分の根底にあるものが投影された、とてもイタリア的な料理だと思います」

イタリアを愛し、イタリアで学び、リスペクトを込めた料理がここにある。

トルテッリーニ・イン・ブロード・ディ・プロシュート
ラビオリと、サイコロ状にした2種の調理法のダイコンの浮き実に合わせたのは、生ハムと香味野菜で取ったブロード。ラビオリに包まれているのはリコッタとパルミジャーノ、そして細かく刻まれた秋田県名物いぶりが っこ。ラビオリの中と外にダイコンと燻製の香りを配した意欲的なひと皿。

Shigeru Iwatsubo
1978年生まれ。「エコール辻 東京」を卒業後、1998年~2003年まで「アクアパッツァ」に在籍し、日髙良実氏に師事。その後、イタリアへ渡り2006年に帰国。「リストランテ カッパス」料理長、「リストランテ カシーナ・カナミッラ」料理長を経て、2012年「イル プレージョ」をオープン。「ミシュランガイド東京」の2014年版・2015年版では一ツ星を獲得している。

田中英代=取材、文 林輝彦=撮影

本記事は雑誌料理王国274号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は274号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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