成功店に学ぶ 成功の新法則「PATH」


 

「PATH」は、おいしい店が密集する代々木八幡にある、朝昼夜楽しめるビストロだ。オーナーは、パティシエの後藤裕一さんと、シェフの原太一さんのふたり。新宿の「キュイジーヌ[s]ミッシェル・トロワグロ」でともに働いていた仲間だ。後藤さんはその後、ロアンヌの本店に招かれてシェフパティシエとして活躍。原さんは渋谷に「ビストロ・ロジウラ」を開業、ミシュランのビブグルマンに掲載される人気店となった。

そのふたりがタッグを組んだのだから、さぞかし敷居の高い店かと思いきや、その正反対。味は本格派なのに、誰もが気兼ねなく入れるカジュアルスタイルのビストロとして成功を収めているのだ。

店を作るにあたり、ふたりで話し合ったのは「やりたいことをすべて実現しよう」ということだった。大好きな朝食もやるし、パンと焼き菓子は自家製。テイクアウトもできたらいいし、夜はコース料理をやるけど、軽く飲みながらつまんでいる人がいてもいい。あれこれ盛り込んでいった結果が、この店になった。

パン&焼き菓子、キッチン、サービスとそれぞれの担当に分かれて仕事をこなす。料理はもちろん、パンもジュースも自家製で、テイクアウトもやっているため、かなり忙しい。

ガストロノミーに負けない朝食
幅広い層の顧客を取り込む

朝は8時から14時まで朝食とブランチを提供する。「ダッチパンケーキ生ハムとブッラータ」「トレビスキヌア ザクロのサラダ」「自家製ツナ ジャガイモ、蕎麦の実のピタサンド」など7種類のメニューのほかに、クロワッサンやパン・オ・ショコラ、マドレーヌといった焼き立てパンと焼き菓子を用意。自家製にこだわり、器も国内外の作家ものを揃えた。

「朝は、サンドイッチやスープやサラダといった、シンプルなメニューにしました。でも、夜と同じクオリティで、ガストロノミーレベルのひと皿を味わってもらうという気持ちで作っています」(後藤さん)

夜は、コース料理とアラカルト。旬の食材を変幻自在に組み合わせた、クリエイティブな料理がメニューにのぼる。ただしスタイルは、朝と同様にあくまでもカジュアルに。だから、料理をつまみながら若者が立ち飲みで一杯やっていたり、コース料理に舌鼓を打つ美食家がいたりと、味わい方も客層も年齢層もバラバラ。それは、「誰もが来店しやすく、楽しめる店にしたい」というオーナーふたりの思惑通りの姿だ。「朝食をやっていることで客層がぐっと広がり、結果的に、自分たちのやりたいことがお客さまに伝わったのかもしれません」(原さん) 

昼の営業後の15時半、朝のスタッフと夜のスタッフが交わり、一緒にまかないを食べるのが毎日の決まり事。コミュニケーションをとることが、いい雰囲気にもつながっていく。

「気持ちよく働く」ことが、個々の能力アップにつながる

営業時間は8時〜14時と、18時〜23時。朝早くから夜遅くまで、営業中はほぼ満席のフル回転となる。カウンター9席、テーブル14席、スタンディング8席(夜のみ)を、スタッフ9名が朝番と夜番の2交代で回す。交代制にしたのは、「拘束時間を極力少なくしたい」というオーナーふたりの思いから。仕事は、パン&菓子、キッチン、サービスの分業制。スタッフそれぞれが個々の仕事を、責任をもってこなしていく。

夜番は13時に出勤し、朝番チームと合流。約2時間半は、一緒に店に立つ。

「あえて交わる時間を設けています。そうすることで、どういう仕事をしているかお互いわかるし、経験豊富なスタッフから学ぶこともできますから」(原さん)

それでも全員があまりに忙しすぎたため、実は今年に入って新たに作ったポジションがある。10時頃から出勤する、朝番と夜番の両方をヘルプする「中番」の1名だ。ヘルプに加え、夜の仕事はどうやっているのか、朝番のスタッフの質問にも答えられるし、その逆もある。つまり中番は、朝と夜のつなぎ役でもある。「全体のバランスが見えている重要なポジョンです。今ではそのスタッフがいないとちょっと厳しい」(原さん)

15時半からはスタッフ全員でまかないを食べ、交代する。

「あと2〜3人雇うことができたら週休二日制を実現できるんです。そこまでもっていきたいと思っています」(原さん)

後藤さんと原さんのふたりがもっとも大切にしているのは、「気持ちよく働く」こと。いい雰囲気の空間で、時には夢中で仕事をし、休む時はきっちり休む。そんな快適な環境をつくることが、スタッフひとりひとりの力を引き出し、魅力的な店作りにつながっているのだろう。

ある日のコース料理から、冷前菜の「雲丹 新玉ねぎ 長芋」

成功の新法則

客単価の目安を設定せず幅広い客層を受け入れる
「PATH」は早朝からの営業でブレックファーストを提供。夜は本格的なコースとアラカルト、立ち飲みスペースも。老若男女、美食家も、レストランに行き慣れないゲストも来店する。

長時間労働はできるだけ避ける
スタッフ一人ひとりが力を発揮できる環境を整える

グランメゾンにひけをとらないひと皿を出す
スタイルはカジュアルに。でも、ブレックファーストのサンドイッチもディナーのひと皿も、料理は最高のものを準備する。

Taich Hara
1981年東京都生まれ。コムダビチュード、「キュイジーヌ[s]
ミッシェル・トロワグロ」などで修行後、2011年、渋谷に「ビストロ・ロジウラ」を開店。 2015年にはパティシエの後藤裕一氏と共同で「PATH」をオープンさせた。

Yuichi Goto
1980年東京都生まれ。パティシエの仕事に感銘を受け、大学卒業後、「オテル・ドゥ・ミクニ」へ。「キュイジーヌ[s]ミッシェル・トロワグロ」で研鑽を積み、仏の本店で4年間シェフパティシエを務め、帰国。「PATH」をオープン。

名須川ミサコ=取材、文 星野泰孝=撮影

本記事は雑誌料理王国275号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は275号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする