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システムエンジニアから夢を捨てきれず飛び込んだ料理の世界「リストランテ山﨑 矢島直樹さん


シンプルで潔いイタリア料理その理念を真摯に受け継ぐ

リストランテ山﨑 矢島直樹さん

伝統技法を用いながら厳選した食材で繊細に

昨年で創業30周年を迎えた「リストランテ山﨑」6代目シェフの矢島直樹さんは、自身の「基礎となるひと皿」にトマトソースのパスタを選んだ。

「旬の食材のもっともおいしい瞬間を、無駄なく最適な調理法で作る料理。僕の考えるイタリア料理を体現するひと皿だと思っています」

この日使ったのは静岡から届いた桃太郎トマト。到着してすぐに使わず、追熟させて食べごろを見極める。「最近は甘いものが人気ですが、このトマトは甘味だけでなく、酸味とのバランスがよい。イタリアにいた頃と同じような感覚で使えています」

ポンマローラとは、ポモドーロ(トマト)を指すナポリの方言。イタリア時代に習得したというソースは、ナポリの伝統的な手法で作られている。そしてこの奥深いトマトソースだからこそ、日本では馴染みの薄い、かなり太い乾麺を選ぶ。約分かけてゆで上げるスパゲットーニの太さは25ミリ。ただし、でき上がった皿を見ると、不思議にも繊細さが。そんなところにも、日本とイタリアの一流リストランテで研鑽を積んできた矢島さんらしさが感じられる。それはすなわち、現在の「リストランテ山﨑」らしさとも言い換えられる。

社会人として異業種を経験し飛び込んだ料理の世界

システムエンジニアとして就職するも夢を捨てきれず、専門学校へ。すでに22歳だった。人生を捧げて打ち込み、仕事で成果を上げたい。自分にも可能性があるなら、挑戦したい。そんな思いで料理の道に飛び込んだ。「技術は若いほうが身につきやすいと言われているので、年齢的なことは意識していました。もちろん苦しいことはありましたけれど、選んだ道ですし、覚悟もしていた。親には大反対されたので、どうにかして認められたい、モノにするんだという気持ちが強かったですね」

卒業後は、いつか働きたいと思っていたイタリアの「ダル・ペスカトーレ」で修業した濱﨑龍一シェフの「リストランテ濱﨑」の門を叩いた。

その後、「リストランテ山﨑」の6代目シェフの話が来たのは、イタリアで研鑽を積んでいた頃だ。オーナーの山﨑順子さんと食事をしながら、イタリアでの仕事の仕方や料理に対する思いなど、2、3の質問だけで、試食などなく「シェフをあなたに任す」と言われたときは、びっくりしたという。

茨城県産仔鳩ととうもろこしのバリエーション
鳩の胸肉はシンプルにロースト。モモにはレバーペーストを仕込みコンフィとして。ローズマリーを添えたのは、最小限の火入れを施したササミ。また、鳩の飼料でもあるトウモロコシを余すことなく、ポレンタとともにさまざまな調理法で、テクスチャーのバリエーションを楽しむ。ほのかに、リクイリツィアの香りでアクセントを。

日本でイタリア料理を盛り上げることに貢献したい

濱﨑シェフの徹底した食材選びに始まり、ミラノで師事したシェフたちも食材を徹底して吟味していた。いつしか、矢島さんにとってそれは当たり前の感覚として身についた。「今、東京だからこそできるイタリア料理。世界中からも優良な食材が集まるこの場所で、イタリア現地と遜色なく手に入るものや、日本ならではのおいしさを新たな発見とともに追求していきたい」

そんな矢島さんの「今」を表したひと皿が「茨城県産仔鳩ととうもろこしのバリエーション」。鳩のモモにはレバーペーストが詰められており、イタリアの修業先で最初に任された料理がレバーパテだったという思い出が込められている。それを、夏に向けて旬を迎えるトウモロコシと合わせた。味も香りも、素材同士の相性がよいのがわかる。帰国後に得たヒントを、自身の中で昇華させて生み出した料理だ。

最後に、今後について尋ねてみた。

「イタリア料理の店はたくさんあっても、’90年代のような元気がない。でも、イタリア料理は日本に根付いています。だからこそ、リストランテのあり方を見つめ直す必要がある。そのためにはまず、30年という土台のあるこの店をより盛り上げていきたい。業界全体を牽引するのはリストランテの役目だと思うから。それが今の自分の目標であり使命です」

しかし、老舗の6代目。プレッシャーはないのだろうか。

「もちろんありますが、そのようなプレッシャーを受ける立場にいられることが光栄です。リストランテはサービス、雰囲気、そして料理が三位一体。そして主役はお客さま。お客さまに喜んでいただけることがモチベーションになっています。気付いたことをちゃんと伝えてくれる方がいる。本当にお客さまに育てられていると日々感じていますね」

スパゲットーニ ポンマローラ
食材を吟味し、潔くシンプルに調理するというイタリア料理の基本を象徴するひと皿。今回は2~6月に出回る静岡県産の桃太郎トマトを使用。

Naoki Yajima
1981年、埼玉県生まれ。22歳の時にシステムエンジニアから料理人への転身を決意。服部栄養専門学校卒業後、「リストランテ濱﨑」で約6年間の修業を経て渡伊。ミラノの二ツ星「イル ルオゴ ディ アイモ エ ナディア」で3年間修業を積む。その他、トスカーナ州「アルノルフォ」、 シチリア島「カフェ シチリア」、ピエモンテ州「イル チェントロ」、「マチェレリーア マルティーニ」などで研鑽を積み帰国。2015年1月「リストランテ山﨑」6代目シェフに就任。

田中英代=取材、文 林輝彦=撮影

本記事は雑誌料理王国274号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は274号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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