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魚名人に聞く!魚をもっとおいしくするひと技「リストランテ 濱﨑」濱﨑龍一さん


魚はデリケートな食材。
下拵えや火入れに熟練の技を要する。「魚の国」に生まれた日本人の魚使いは、 世界の料理人の中でも 群を抜くと評される。
魚の特徴をどう活かして、 どうアレンジするか。 「リストランテ 濱﨑」濱﨑龍一さんに「ひと技」を聞いた。

魚は、まな板に上がるまでが勝負

リストランテ 濱﨑 濱﨑龍一さん

東京・南青山の名店「リストランテ濱﨑」のオーナーシェフ・濱﨑龍一さんは、自他ともに認める魚名人である。ハタやイサキのグリル、鮎の焼きリゾットなど、旬の魚料理が常にリピーターを虜にする。

「いろいろなプレゼンテーションができるのが、魚料理の面白いところ」と、濱﨑さん。獲りたてのコリコリした食感の硬さを表現するのもいい。ねかせて、魚の旨味を存分に活かした皿に仕上げることもできる。

「生きていて動いている魚を、どのような皿に仕立てて、お客さまに楽しんでいただくか。魚は表現の幅が広がる豊かな食材です」

魚名人が使った食材 「鹿児島県産 ボンタンかんぱち」
ボンタンの香りをまとい身のひきしまった旨味を活かす

使いやすく、鮮度抜群の魚を存分に活かすには

「漁業の盛んな鹿児島県の生まれですから、活きのいい魚のおいしさは充分に知っています」

南北600キロメートルにわたる広い海域に、水深200メートル以上の漁港をはじめ、多くの離島が点在する鹿児島県。住民は海の恵みを存分に受けている。ブリやカンパチ、ウナギの養殖は日本一の生産量を誇り、濱﨑さんの育ったいちき串木野市は、遠洋マグロ船の隻数が日本一という〝マグロの街〞でもある。

濱﨑さんは、毎日厨房に立ちながらも時間をやりくりして産地へ行く。「魚に限ったことではありませんが、自分自身を触発するためにも、生産者を訪ねて話し合うことが不可欠だと思っています」

生産者と料理人の密なる交流こそが、料理人濱﨑さんの創造力と表現力を駆り立てる。新しい発想がわき、盛り付ける皿も、当初考えていたものと、違ってくることがあると言う。

そう、濱﨑さんは「まな板に上がるまでが勝負」と言うほど、生産者と食材へのリサーチを欠かさない。そうして出会った「新しい魚」が、故郷・鹿児島県の「ボンタンかんぱち」だ。

早朝8時。鹿児島県北西部、長島海峡の急潮でもまれた鶴長水産の「ボンタンかんぱち」が水揚げされる。ネーミングそのままに、ボンタンを混ぜた飼料を食べたカンパチの身は、ボンタンの香りがして、魚特有の生臭さがない。そして徹底した衛生管理のもと、その場でフィレだけにし、真空パックで発送する。これが次の日には、東京の濱﨑さんの店に届く。

通常、カンパチは、全長60センチ前後で3~4キロはある。それが下処理され、フィレだけになっているのだから使いやすい。80グラムの切り身にして、粉と塩をうつ。塩は苦味の少ないマイルドな味わいの伊豆大島の焼き塩「海の精」を使う。

「魚の臭みをなくしたいという生産者の想いを知っているから、僕は火を入れ過ぎない。火が入ると魚の香りが強調されるからです」

身はフライパンで一気に表面に焼き色をつけ、中身はレアに仕上げる。濱﨑さんは、この料理のイタリア語名を「Kanpachi in Padella con Zucchini」と名付けた。in Padella(フライパンの中で焼く)がミソで、新鮮なカンパチの食感を活かすための〝火入れのコツ〞がここにある。

「ハーブやオレンジを使ったソースとドレッシングで、ボンタンの香りを活かしました」。すべては人にあり。そう語る濱﨑さんの〝料理哲学〞が詰まったひと皿が生まれた。

【レシピ】「ボンタンかんぱち」インパデッラ指宿産ズッキーニとともに

香草のソースとオレンジドレッシングをまとった「ボンタンかんぱち」の何と優しく美味なることか。カンパチから漂うボンタンの香りとオレンジソース、香草ソースが調和しながら深い味わいを構築する。ズッキー二とカンパチの食感もマッチングして、濱﨑シェフならではの華麗な世界に魅了される。

材料 (作りやすい量)

カンパチ(鹿児島県産、ボンタンかんぱち)…約80g

サルサヴェルデ
バジリコ、イタリアンパセリ(葉の部分)、松の実(乾燥焼きしたもの)、ケッパー…各8g/エストラゴン(あれば)…1~2g/レモンの果肉…20g/エクストラヴァージンオリーブオイル…35g/白バルサミコ酢(なければ他のヴィネガーでもよい)…20g/ハチミツ…16~20g

オレンジドレッシング
オレンジジュース(鹿児島県産)…350g/エクストラヴァージンオリーブオイル、レモン汁、塩…各適量

付け合せ
ズッキーニ鹿児島県産(スライスしてさっとゆでたもの)…3~4枚/ウイキョウ(スティッキオ)…1~2本/ハーブ(チャービル・ディル・チャイブの花・ルッコラの花など)…各適量/プティトマト…3~4個/ラベンダービネガー、塩、エクストラヴァージンオリーブオイル、ハチミツ…各適量

作り方

1.魚に塩と粉(分量外)をうち、フライパンで焼く。必ず中身は生の状態にする。
2.サルサヴェルデを作る。材料をすべて合わせてミキサーにかける。
3.オレンジドレッシングを作る。オレンジジュースを鍋で煮つめボウルに移し、エクストラヴァージンオリーブオイル、レモン汁を加え塩で味をととのえる。
4.プティトマトを1/4にカットし、ラベンダービネガー、塩、エクストラヴァージンオリーブオイル、ハチミツとボウルで和える。
5.皿にサルサヴェルデをひき、1の魚を盛り、付け合わせのズッキーニと、オレンジドレッシングで和えたウイキョウ、ハーブと4を添える。

切り身に粉と塩(伊豆大島の焼き塩「海の精」)をうち、フライパンでグリルする。ガス火による「強火のよさ」を充分に活かし、中身はレアに仕上げる。

Ryuichi Hamasaki
1963年鹿児島県生まれ。日本調理師専門学校を卒業後、渋谷の「バスタ・パスタ」を経て、イタリアで修業を積む。乃木坂「リストランテ山﨑」で料理長を務め、 2001年、南青山に「リストランテ濱﨑」をオープン。以来、イタリアンの名店として愛され続けている。


長瀬広子=取材、文 星野泰孝=撮影

本記事は雑誌料理王国第254号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第254号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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