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修業するはずなのに。「アターブル」中秋陽一さんに起きたフランス時代のある事件


自分の立ち位置を見極め前へ進む原動力とする

「料理人を目指したきっかけは、高校時代、レストランでアルバイトをしていて、『料理人ってカッコいいな』と思ったからです。服部栄養専門学校を選んだのは、やっぱり服部校長の知名度かな。『ここならきちんと学べる』と思えたのが、選択の理由でした」と、「アターブル」のオーナーシェフ中秋陽一さんは笑顔を見せる。フランス料理を志したのは、理論がしっかりしていることと手数が多いことに興味を持ったからだ。2000年に調理師本科を卒業。恵比寿にあるフランス料理のレストラン「モナリザ」で修業をしたのち、21歳でフランスへ渡った。

「フランス料理をつくる以上は、フランスの文化や人々の暮らしぶりを知らなければいけないと思ったんです」

 しかし、思いもかけない“事件”が中秋さんを待ち受けていた。

「パリ郊外のレストランで働くことになったのですが、入るとすぐに料理人が辞めてしまって、料理をつくれるのが僕一人になってしまったんです。それで、『お前が料理をつくれ』と社長に言われ、毎日、料理本を見ながらルセットを書き、料理をつくりました」 

 とんでもない荒療治。でも、鍛えられた。「フランス料理なのに、意外と雑で驚きました」と中秋さん。でも、そのちょっとユルいところが自分の性格には合っていた、と笑う。

「4年半フランスにいましたけれど、その後、星付きレストランに入っても困ることはありませんでした」

燻製アワビとフォワグラ、小鳩のショーソン
丸く切ったパイ生地のなかに、燻製アワビとフォワグラ、小鳩のパテを入れて、二つ折りにして焼き上げた。

 帰国後、28歳で学芸大学に自身の店をもち、それなりの成果を出した。

「次は都心で勝負をしてみたいと思い、この店を開きました」

 土地勘がなかったため、料理は正統派フランス料理を学んできた料理人に任せ、客層を見極めるために自分はサービスに専念した。「剛」というより「柔」。置かれた立場に立ち向かうわけでもなく、柔軟に対応しながら自分の進みたい道に向かって前進していく。

「まだまだ成長段階です。学びたいことは山ほどあります」と語る中秋さん。実際、今も尊敬する先輩シェフのところへ料理を学びに行くことも少なくない。

 2017、2019年の「パテ・クルート世界選手権アジア大会」で4位に入賞した。

「コンクールに出ると、今の自分の立ち位置が分かります。それは、とても大事だと思っています。もちろん、出るからには優勝したいですけれどね(苦笑)」

 そんな中秋さんが後輩にアドバイスしたいのは、「座学を大切に」ということだ。

「技術はやっているうちについてきますが、知識は覚える気持ちがなければ身につきません。でも、その知識こそがプロの料理人になってみるとモノを言う。知識があるとないとでは、つくる料理の幅や奥深さが違います」

 この店では、クラシックなフランス料理を提供していきたい、と中秋さんは言う。

「流行とは逆行しているかもしれませんが、ひと目でフランス料理と分かる料理が好きなんです。ガツンと食べていただける料理。印象に残る料理をつくっていきたいですね」

 そこには、揺るぎのない笑顔があった。

中秋陽一
1981年、東京都生まれ。服部栄養専門学校を卒業後、恵比寿の「モナリザ」を経て渡仏。名だたる星付きレストランで4年半研鑽を積み、帰国後に独立。クラシカルスタイルのフランス料理を得意とする。2017、2019年の「パテ・クルート世界選手権アジア大会」4位入賞。

アターブル à table
東京都文京区湯島3-1-1 木村ビル1F TEL 03-5812-2828
http://atable-tokyo.co.jp

text 山内章子 photo 服部貴

本記事は雑誌料理王国2020年6・7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年6・7月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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