都心で自分のレストランを持つこと、有名店のシェフになって活躍することは、料理に携わる人にとって今も大きな夢や目標のひとつ。“都心”という条件を生かして、通常のレストラン営業という枠をこえ、活動する料理人をご紹介します。
東京・両国にある蕎麦の名店「江戸蕎麦 ほそ川」。
店主の細川貴志さんが作る十割蕎麦は、自ら産地に出向いて仕入れる良質の玄蕎麦を、その日使う分だけ自家製粉しています。その香り高い蕎麦は、一般客から料理関係者にわたり数多くのファンがいて、創業40年(両国に移転して20年)ほど経った今でも、その人気は衰えることを知りません。
こだわりは玄蕎麦だけではありません。かえしに使う醤油から、天ぷらの野菜、牡蠣や穴子などの魚介まで、自らの足で生産者の元に通い、仕入れの交渉をしています。また店休日には、フランス料理、イタリア料理、日本料理、鮨など“旨いもの”をたくさん食べ歩きく。日々の美食体験は「ほそ川」の料理のインスピレーションとなっています。さらに異ジャンルのシェフと交流がある細川さんの蕎麦粉は、東京・浅草のフランス料理店「ナベノイズム」、渡辺雄一郎シェフのスペシャリテに使われていることでも知られます。
そんな細川さんから「久しぶりに蕎麦打ち教室を再開します」と連絡をいただいて、取材をかねて、私も体験させていただくことにしました。
まず教室で使う蕎麦粉や打ち粉は、普段営業で使っているものと全く同じもの。蕎麦粉は1人1玉500g、およそ5食分を、細川さんのご指導のもとで打っていき、完成した蕎麦は持ち帰ることができます。ちなみに、ほそ川の「もり汁」もお土産としてつけてくださるのが嬉しいところ!
さて、蕎麦打ちの行程を、大まかに書くとこのような感じです。
●捏ね鉢に入れた蕎麦粉に水を合わせていく「水回し」
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●空気を抜くように練り上げていく「菊練り」
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●麺棒で平たく延ばしていく「のし」
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●リズミカルに包丁を入れる「切り」(私の切りはリズミカルとは程遠い、調子が悪いメトロノームといった感じ・・・)
細川さんがつきっきりで教えてくださるものの、粉と水をまとめていく時間が長くなればそれだけ生地が乾いてしまったり、綿棒で薄く均一の厚さに延していくと穴が空いてしまったり…。蕎麦打ちって、本当に難しい…。
ある男性参加者の方は、中野で蕎麦屋を営んでいて、「今は機械を使ってそばを打っているのですが、これから手打ちに変えていきたくて。何度も通って、細川さんの技を習いたい」とのこと。この方のように、参加者の半分は、蕎麦屋を営んでいる方で、技を極めたいという理由で参加されていました。
ところで、通常営業だけでも十分忙しい細川さんが、なぜ今、教室を再開したのでしょうか。
「ほそ川を愛してくださるお客様や、蕎麦打ちを極めたいファンの方への恩返しです。あとはもうひとつ、実はうちで働いてくれるスタッフを見つけるためでもあります。蕎麦が好きな人に、ぜひ来てほしいです」(細川さん)
なるほど。履歴書を見て、面談をするだけよりも、蕎麦打ち教室に参加する様子からその人の性格や仕事へのポテンシャルを見出すことができそうです。
Covid-19の影響が落ち着き、インバウンドゲストも増え、オーバーツーリズムが問題視されている日本。レストランの人手不足も深刻化している今、良い人材の見つけ方として、ほそ川の「教室を開いてポテンシャルを見る」というのは名案かもしれません。
蕎麦の材料は、蕎麦粉と水。この二つだけ。それなのに、誰が打つかによってこれほど出来上がりに差が出てくる。蕎麦は本当に奥深い料理です。
細川さんの持つ技術やノウハウを学びたい方は、ぜひ一度、教室を訪れてみてはいかがでしょうか。
12月6日発売予定の「臨時増刊1月号」では、動画と誌面が連動したfoover連載で細川さんを取材し、「蕎麦と水」の関係性について教えていただきました。YouTubeにも動画を公開予定です。ぜひお楽しみに!
江戸蕎麦ほそ川
東京都墨田区亀沢1-6-5
TEL 03-3626-1125
蕎麦打ち教室について
開催日:毎月第1、第3 金曜日
時間:17:00~20:00
会費:初回7,000円、2回目以降5,000円
定員:5~6名
申し込み方法:電話(昼営業中の11:30~14:00は避けてください)
※当日のデモンストレーションはありません。予習は料理王国YouTubeにアップされている蕎麦打ち動画をご覧ください。
text・photo:ナナコ