「今行きたい、フレンチビストロ10名店」『ナベノイズム』


ジョエル・ロブション氏に全幅の信頼を置かれ、総料理長として高い要求に応え続けた渡辺雄一郎シェフが独立して丸5年となる。期待の中でプレッシャーもはねのけまさに〝イズム〞を感じさせる、緻密なひと皿を繰り出し、唯一無二の世界観を表現する。「料理に対して満足という言葉はない」料理人が憧れる料理人の原動力とはなにか。

2016年7月、日本とフランスの融合をテーマに浅草駒形でスタートした「ナベノイズム」。華麗なる経歴を歩んできた渡辺シェフだが、開業当初は不安もあったという。「新しいことには必ず批判も伴うので、さまざまな反応がありました。でも、僕は60歳になるまでの〝還暦プロジェクト〞として始めた店で、料理人としてやりたかったことはこういうことです、という決意を見せたかった。

〝両国江戸蕎麦ほそ川〞の蕎麦粉をソースエミュリュッショネの技法で炊き上げたそばがき

渡辺シェフが20歳のころに衝撃を受けた、ロブション氏の「ジュレ・ド・キャビア」への憧れと尊敬をインスパイアした料理。店の主人が調えるべき料理として、5年間欠かさずシェフ自らが仕上げるスペシャリテは、開店当時から改良を重ね進化し続ける。キャビアとエビ、昆布のゼリー、なめらかなそばがきの三層からなり、蕎麦の香りとキャビアの旨味にうっとりと包まれる。



変わらずお客様に来ていただけていることは、結果のひとつ。間違えたことはしていなかったと感じています」 実際、5年間の足跡は華々しい。ミシュラン二つ星の保持を筆頭に、各料理誌からの高い評価を受け、同業者から常に注目される存在であり続ける。原動力やモチベーションについて伺うと、「僕は妻に呆れられるほどのスーパーポジティブシンキングなんです。焦らず前向きに、頭をやわらかく、フットワークを軽く、できることをやるだけ」と笑う。コロナ禍においても、その前向きな姿勢は健在だ。メディアへの露出をあえて増やし、アクションを起こし続けているという。


「お客様の目に触れ続けることが大切。それは一料理人として業界のためにできることでもある」という『ル・マンジュ・トゥー』の谷シェフの教えからだという。 現在を還暦プロジェクトの折り返し地点と表現する渡辺シェフに今後を尋ねた。「最終的にブション(リヨンにある大衆ビストロの総称)のような気軽な店をやりたい」としながらも、「年々できることが増え、やりたい表現が加わる。今改めて『料理をつくるって楽しい』と感じています」と続ける。常に料理を楽しむその姿勢こそが〝伸びしろ〞を無限大にする理由なのだろう。

ARCHIVED COLUMN
「常に〝伸びしろ”はないか、考え続けている」」


本誌が定期的に行う「シェフがシェフを選ぶ企画」を初のアワード形式で発表。その栄えある第一位となるベストシェフに選出された渡辺シェフの魅力に迫った。ロブショングループから独立、「ナベノイズム」を立ち上げて約半年となる時期。早くもミシュラン一つ星(2019年からは二つ星を堅持)を獲得するなどの快進撃を続ける渡辺シェフに〝戦略〞を伺い、調理器具や器、食材、分量など細部に到るまでのこだわりや完璧な采配、料理へのあくなき探究心について徹底解剖した。

text: Yuki Kimishima photo: Yoshiko Yoda


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