編集長の野々山が、料理王国10月号(9月6日発売)の見どころを、編集こぼれ話として紹介。「江戸前鮨の名店」の取材で伺った、シェフにこそ行っていただきたい店の条件とは?
知人の編集者から、料理王国にぴったりの人がいるからと紹介されたのが、大谷悠也さんでした。編集者生活40年を超える僕ですが、現役ブロガーにお会いしたのはこの時が初めて。ブロガー仲間の興味深い話は、ここでは書けないことも多く、驚くべき業界なんだと感心しました。日々、深化していくブログの世界ですが、大谷さんは日本初の鮨ブロガーなのです。
日本国内外で6,000軒を超える飲食店を食べ歩いたというから驚きです。自らも鮨を握るということで、かねてから料理王国でやってみたかった鮨テーマを、この人なら任せられると即断して、実現に至りました。現場を知り尽くした大谷さんだからこそ出来た企画。それが、「シェフに行ってほしい江戸前鮨の名店」でした。
単純な鮨の名店の紹介ではなく、飲食関係の方が行って、参考になるような江戸前鮨の名店。それが今回、10月号で紹介した5店だったのです。大谷さんが選んだ5店に共通するのは、どこも職人肌で、探究心があるということ。鮨に関しての会話は、精密な旋盤工の方達がかわす専門用語(と言っても僕は旋盤工の方を取材したことがありません。あくまで職人肌のイメージということで)に相通じるものでした。
1軒目の常盤鮨は、横浜なので、江戸前鮨と言えるのかという意見もありましたが、そこは広い意味に解釈してということで、大谷さんはここは外せないと、店のラインアップを決めるときに言っていました。確かに、江戸前鮨の名人の薫陶を受けたという職人技と味は見事なものでした。
2軒目は、常盤鮨の取材の時にも話を伺っていた、神楽坂のすし ふくづかへ。林ノ内さんからは、東京カレンダーに出てくるような感じの店、と聞いていましたが、まさにその通り。
今回の巻頭の写真にあるように、その独特の握り方で、業界では有名とのこと。パフォーマンスやインテリアも料理店にとっては、ゲストに感動を与える大切なエレメントですよね。ここでは、鮨にスポットライトが当たるようにセットされています。
暗い、ムーディな感じの鮨屋はなかなか味わい深いものだと思いました。福塚寛希さんは、20年間、都内の割烹や鮨店で研鑽を積んだ人。研究熱心で、酢を3種類使い分けたり、江戸前の鮨を、時代を遡って研究して、今の鮨に生かしています。
と、ここまで書いてきて気がつきましたが、今回、鮨の写真が撮れていない?!
実は、鮨撮影は時間との勝負で、握ったらすぐに撮影。撮影したらすぐに試食と慌ただしかったのです。とにかく食べなければ! カメラマンと編集スタッフと僕の三人で、撮影した鮨を一貫ずつ順番にいただきました。なので、僕が写した鮨の写真がありません。ぜひ、10月号をご覧ください。
撮影の前に打ち合わせをして、角度、ライティングを研究して臨みました。竹田カメラマン会心の鮨画像は美しく美味しそうです。
本誌では、コハダが5店でそれぞれクローズアップされています。それはなぜか。読者の皆様へ、という本誌の巻頭にある僕の文章でも引用しましたが、大谷さんはこんなことを書いてくれました。
「コハダが鮨の主役であるためだ。SNS全盛の世においてはマグロやウニが主役のように扱われがちだが、鮨職人の技術と美学を率直に表すタネはコハダである。鮨以外では不味とされる魚のコハダを〆の仕事を以て格上げし、自らの酢飯と握りの技術を駆使して感動的な味へ昇華させる。それができる職人こそが腕の立つ職人であり、コハダこそが最も江戸前鮨らしいタネである。正しく、鮨はコハダに止めさす」
との回答。なるほどと納得しながら、骨太の解説とともに10月号でお楽しみください。料理王国web版では、すでに注目の大谷さんの鮨記事配信が始まっています。