「鮨シーンの今」と「今だからこそ伝えたい鮨の楽しみ方」

「すしログ」の大谷悠也さんをナビゲーターに、「鮨シーンの今」を解説し、「今だからこそ伝えたい鮨の楽しみ方」を提案する。

シリーズ第2回目は、「鮨シーンの今」を解説し、「今だからこそ伝えたい鮨の楽しみ方」を提案する。さて、未だ終焉の兆しを見せない「鮨バブル」。ネガティブに受け取られがちで功罪はあるが、鮨好きを増やしたことは紛れもない功績だろう。Instagramが同時期に普及したことも大きい。それも、消費者だけでない。一昔前はSNSを活用している鮨職人はごく一部であったが、今や多数の方が活用している。「鮨バブル」とSNSが両輪となることで、鮨はクールなジャンルとなった。ただ、長年鮨を食べ歩いている人間として違和感を覚えるのが、人気店の偏重だ。人気が新規店に集中し過ぎている。これは正直なところ、もったいない。せっかく鮨が多様化したのだから、幅広く食べ歩いた方が楽しいはずだ。

鮨への憧憬を芸術に昇華させた作品として、志賀直哉の『小僧の神様』が挙げられる。読み終えた時に心から鮨を食べたくなる傑作だ。今も昔も高級な鮨店は人の憧れを惹きつけるのだろう。特に昔は、店舗の格式で味の差が今よりも大きかったはずだ。それは、物流や冷蔵技術を考慮すると想像に易い。故に、江戸前鮨では「保存としての調理」が編み出された。「保存としての調理」は今でも老舗の鮨店で頂くことができる。

しかし、SNSでは老舗が置き去りにされがちだ。本当は、老舗には素晴らしい仕事が継承されているのに、である。名だたる現存する老舗で頂くべきは、〆ものと煮ものだ。いわゆる「仕事系」のタネである。

老舗の「仕事系」の鮨は、「いぶし銀」という形容がふさわしい。「いぶし銀」が意味するところは、「見た目の華やかさはないが実力や魅力があるもの」。SNS全盛の世の中で、大切なものは「いぶし銀」だ。これは短絡的なノスタルジーではない。〆ものと煮ものに限って言うと、「いぶし銀」の職人は多くの若手職人を凌ぐ技量を持っている。

最近は、鮨で最も重要なタネはマグロと思われがちだが、実はコハダである。いかにマグロが美味しくても、コハダが美味しくなければ鮨の名店たり得ない。マグロは良い仲卸から仕入れれば、包丁の切り付けで美味しく提供できる。しかし、コハダはそうは行かない。職人の腕が如実に表れるタネなので、「訪問すべき鮨店であるかどうか?」はコハダの美味しさで選べば間違いない。コハダが美味しい老舗に伺うことで、現在の鮨とは異なる鮨の魅力を最も強く実感できるだろう。

『偲ぶ与兵衛のすし』(明治初期の江戸前鮨)

そして、老舗の味を知った後にオススメなのが、系譜で訪問する手法だ。これは必ずしもスタンプラリー的な訪問を意味しない。系譜を巡ることで、鮨の仕事がどのように変わっているかを楽しむことができるのだ。

当然ながら鮨職人も多くの料理人と同じく、独立する際に自分の色を出さないといけない。しかし、出しすぎてはいけないのが、鮨の難しさ。職人の工夫と独自性を知れるのが系譜での訪問だ。

例えば、言わずと知れた「銀座久兵衛」や、「与志乃」の仕事を継ぐ「すきやばし次郎」や「鮨水谷」。これらのお店の出身者は独立後に自身の色を打ち出して、息の長いお店を営んでいる。系譜を巡ることで、鮨の進歩と古典の魅力を同時に体感できるはずだ。

それでは次回より、具体的にお店を紹介していく。「すしログ」ならではの視点で選ぶので、楽しみにして頂きたい。

text・photo:大谷悠也

大谷 悠也
1981年、広島県生まれ。国際基督教大学卒業。鮨研究家、文筆家、ブロガー。寄稿、テレビ出演多数。鮨・鮓・寿司の人気を高めるべく「すしログ」を運営し、全国を精力的に回る。日本国内外で6,000軒以上の飲食店を訪問。鮨店だけでなく市場や生産者、醸造家のもとに足を運び、自ら調理を行う。

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