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ネタとと季節感と物語を重んじる「鮨あらい」新井祐一さん


ネタの季節感と物語を重んじる“鮨屋”らしい“鮨屋”でありたい

鮨あらい 新井祐一さん

迷うことなく“王道”を進む。新井さんの仕事に対する信念だ。「銀座久兵衛」「すし匠」など、名店で修業を重ね、33歳にして激戦区・銀座で独立した。開店2カ月後には予約の取りにくい店となり、「一流」の仲間入りを果たしたと言われる新井さんだが、「運よく軌道にのった」のかといえば、それはちょっと違う。

今は亡き父親は鮨職人だった。遺伝子がそうさせたのか、「物心ついた時から鮨屋になることだけを夢見てきた」と言う。今日まで鮨のことしか考えてこなかったと言っても過言ではない。だから新井さんの成功は偶然ではない。目標に向かって長年努力してきた当然の結果なのだ。

「鮨あらい」のにぎりはやや大きめ。鮨ネタの魚介類は、マグロ、小魚、貝類とアナゴ、エビ、小柱に分けて、築地の5社から仕入れている。

1貫1貫、出す価値のある鮨を吟味して提供する

自分がイメージする“鮨屋”らしい“鮨屋”をめざす。新井さんの言う「鮨屋らしい」とは、お客さまにストレスを与えずに、旨いにぎりを出す店のこと。ゲストに新しいおいしさと出会ってもらうためのコース料理もいいが、それにより、「食べさせたい」という作り手の一方的な思いを押し付けていないだろうか。「会話の中でお客さまの好みを知ってそれを尊重したり、時にはこちらの勧めにも耳を傾けてもらったり。そんなやり取りが、鮨屋で食事をする醍醐味だと思うんです」

お客さまには「1年中旨いものを出したい」と誰もが思う。が、「季節感を大切に、出す価値のある1貫にこだわりたい」とも言う。そのために何をすべきか――。たとえば、ネタの中でも新井さんが“王道”と考えるマグロについては、冷凍ものではなく、1年中、生のマグロのみを使う。春の太平洋側のマグロは脂が薄く、硬いものが多いが、その中でも比較的やわらかいものを選んでいる。このあと産地は佐渡(5月中旬から2、3週間)、東北へと移り、味に奥行きが出てくる。こういうことをゲストと語り合いながら、「これは春のマグロにしては脂があって、やわらかいんです」と説明すると、お客さまは1貫の鮨の背景にある物語まで楽しめる。

しかし、奇をてらった鮨を出すつもりはない。「僕が心がけるのは、誰もが、いつでも食べたいと思える鮨。ただ、最後には『旨い鮨を食べた』と満足してほしいから、うちのにぎりはやや大きめです」。

自分の考え方を理解させるため、スタッフにもお客さまと同じものを試食させている。「マグロはもちろん、どんどんいいネタを仕入れて、お客さまに味わってほしい」と言いながら、その日の夜に使うマグロに包丁を入れる新井さん。充実の表情から、天職に就いた喜びが伝わってくる。

「“王道”をめざすと言っても大それたことは考えていません。これから30年間、お客さまの前で鮨が握れれば満足です」

それこそが、職人としての王道。それをまっとうしようとする姿は、ひたむきで清らかだ。

米を逆アルデンテに炊くのが旨いにぎりのポイント
米は富山産の粒のしっかりしたものを使用し、逆アルデンテに炊き上げる。芯を残すのがアルデンテで、逆アルデンテは周囲がしっかり、芯がふんわりした状態を指す。噛み応え、食べ応えのある鮨にするための工夫だ。

Yuichi Arai
東京都出身。高校卒業後、「銀座久兵衛」に入り、「銀座久兵衛京王プラザホテル店」を中心に8年間修業を積む。その後、四谷「すし匠」で6年間腕を磨き、二番手まで務める。2015年10月、銀座に「鮨あらい」をオープン。

上村久留美=取材、文 富貴塚悠太=撮影

本記事は雑誌料理王国263号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は263号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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