完全放牧牛「ジビーフ」という未体験の世界


皿の上のジビーフ
店それぞれの肉と味

現在ジビーフは常に100頭近くがいるという。それでも月の出荷はわずか2頭。限りあるジビーフを部位ごとにわけ少しずつ分け合う。こんなところにもサステナブルの形がある。

偶然と必然が入り交じるジビーフとシェフの出会い

ジビーフを客前で最後に仕上げるのは、もちろんシェフである。そしてジビーフを扱うシェフは、必ずと言っていいほど様似を訪れている。

例えば「レストラン ラフィナージュ」(銀座)の高良康之シェフのケースはこうだ。「僕が初めて様似を訪れたのは6〜7年前のこと。同行したバードランドの和田(利弘)さんが食べながら外に出ていって『こりゃすごい』って興奮している。『ここの空気を鼻から吸いながら食べると味が違うよ!』と熱くプレゼンするから半信半疑で試したら、様似の鮮烈な風が鼻を吹き抜けました」

京都の「草喰なかひがし」の中東久雄さんは「ずっとうちの料理に合う牛肉を探してたら、ある日NHKでジビーフを取り上げているのを見て『これや! この牛こそウチに来るべき牛や!』って思ったんですわ」と(画面で)出会った日の熱狂を反芻した。

大阪「遊山」の安田宰英さんも直感派だ。

「ずっと追い求めていたんです。5年前に訪れた様似でジビーフが山の斜面を駆け下りるのを見た時、感動して思わず『これや!』と叫んでしまいました。20年以上かけて、探していた『牛らしい牛』がやっと見つかったんです」

かと思えば「イルジョット」の高橋直史シェフは西川さんが新保さんに宛てた手紙だけで肉を使うことを決めていた。

つくづく人生は、縁と運と心意気である。

リブロース&サーロイン
【東京・駒沢】イルジョット

火柱の内炎で焼く焼きの名手

住宅街に佇む一軒家レストラン。厨房では轟々と炎柱を立てながら、内炎の炎で優しく肉を焼き上げる独特の焼きで視覚から胃袋まで客を驚嘆させる。ジビーフのロース(サーロイン、リブロース)は熟成環境もととのった冷蔵庫に納められ、数週間かけて進む熟成を楽しむ事ができる。この日は30ケ月齢と畜で熟成の進んだ「あかり」のサーロインを厚切りに、 32ケ月齢でまだ熟成途上の「かれん」のリブロースは薄切りという組み合わせ。奥の薄削りは、3年ものの鰹節ならぬ”ジビーフ節”。ジビーフ以外の愛農ポークなど、扱う食肉はサカエヤの肉のみ。

2種のジビーフのサーロインとリブロースの炭火焼き

DATA
東京都世田谷区駒沢5-21-9
TEL 03-6805-9229
水~月 18:00 ~ 22:30
火休(不定休あり)

フィレ肉
【東京・銀座】レストランラフィナージュ

美麗なグラデーションに瞠目せよ!

独立から3年目に差し掛かり、焼きも含めた技術の安定感は圧倒的。内部が見えているかのような焼きで、繊細なジビーフのフィレ肉の内部に旨味のグラデーションをじわじわと重ねていく。フライパンでスタートした焼きは、低温に設定したコンベクションオーブンへの出し入れを繰り返しながら、ゆっくり肉内部の温度を上げていく。仕上がり半歩手前まで来たらフライパンで表面に焼き目をつける。カットされた断面はロゼから真紅までの美しい無段階の色調と味わい。「毎回違うタイプの肉だから毎回チャレンジできるのもジビーフの魅力」とにっこり。

完全放牧牛ジビーフのローストと赤ワインの香るコンソメソース

DATA
東京都中央区銀座5-9-16 GINZA-A5 2F
TEL 03-6274-6541
火~日 12:00 ~ 14:00LO 18:00 ~ 20:00LO
月・第3火休(不定休あり)

モモ肉
【京都・左京区】草喰 なかひがし

草に寄り添う肉料理という新体験

「これからは食材も、サステナブルなものが当たり前のように求められるようになる」という店主・中東久雄さんが求め続けた牛肉がジビーフだった。テレビで見たジビーフの話を連日、お客さんに話し訊ねていたら、ある日新保氏の友人が来店し、ジビーフへの道筋が開けたという。コース内に一品出る肉料理の位置づけは「強肴」。長男の克之氏がおくどさんで焼き上げ、季節に合わせた様似の風景を皿の上に描き出す。3月は「牛も食べているから合うのが当たり前」というふきのとうのソースは出会いもの。みかんの皮で春の色を咲かせた。

「野牛と芽吹き」蕗の薹味噌添え

DATA
京都府京都市左京区浄土寺石橋町32-3
TEL 075-752-3500
火~日 12:00 ~ 14:00LO 18:00 ~ 21:00LO
月・毎月最終火休
完全予約制(前月1日AM08:00 ~)

内臓肉
【大阪・南船場】遊山(YUZAN)

ここだけの、草の芳香を感じるホルモン

このホルモンが入荷して、箱を開けると新緑の香りがするという。ミノは歯切れのいい噛みごたえ、小腸はまったく脂を落とさなくても、うっすらとした脂しかまとっていない。その小腸やテッチャンを焼いて噛み込む。ふわりと口から鼻へ、紅茶やイグサのいい香りが抜けていく。「他のホルモンとは別物」と店主も胸を張る皿の上にはミノ、ハート、テッチャン、ツラニク、小腸の5種類。こんなホルモン体験があったとは。これほど香り高いジビーフのホルモン焼肉がレギュラーメニューとして、食べられるのはここしかない。

2種のジビーフのサーロインとリブロースの炭火焼き

DATA
大阪府大阪市中央区南船場1-10-2
TEL 06-6265-1199
火~金 18:00 ~ 22:00LO 土 17:30 ~ 21:30LO
日・月休

text Tatsuya Matsuura、photo Hiroko Hirota/HAL KUZUYA/Tatsuya Matsuura

本記事は雑誌料理王国2021年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2021年4月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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