「なぜおいしいのか。それを構築すれば、料理力で安価な赤身肉が変身する」と語る北岡ムッシュ。フランス料理界の重鎮が披露する「旨い牛肉を極める技」とは――。
脂肪の少ない赤身肉を、ステーキとして柔らかくおいしく食せる秘密は、フランス料理の料理力にある。そのひとつが焼き方。瞬間的に熱を肉全体に与え、すぐに肉を取り上げ、余熱で焼き上げる。こうすれば肉のタンパク質の繊維は収縮しないため柔らかく焼きあがる。肉汁など旨みがドリップすることもない。
そのためには、同じ目方の肉でもフライパンに当る面積を最大限に広げた、厚みのないミニッツ・ステーキが最適となるのだ。ふたつ目がフランス料理ならではのソース。混ぜ合わせバター(ブール・コンポーゼ)だ。このミニッツ・ステーキは、最高にクラシカルなソース、ブール・ド・カフェ・ド・パリとともに。黄褐色だったソースは、熱で溶けるとより芳香を漂わせる。
材料(1人前)
サーロイン(1人1枚)…180g/ブルー・ド・カフェ・ド・パリ…50g/塩、コショウ…各適量/ポンムロザス…1人2 ~3個
ブール・ド・カフェ・ド・パリ
有塩バター…900g
(A) アーモンドスライス…150g/クルミ…100g/黒オリーブ…50g/グリーンオリーブ…50g/コルニッション…200g/エシャロット…150g/ポワポロンルージュ…1個/イタリアンパセリ…30g/ ニンニクラペ…20g/タイム(ドライ)…5g /ローリエ…2枚
(B) ケチャップ…大さじ4/レモン汁…2個分/コニャック…50cc /パプリカパウダー…30g/エストラゴン…20g
作り方
1.薄く広げたサーロインを、温めておいたフライパンで、両面をササっと瞬間的に焼く。すぐに火を止め、肉を一度フライパンから取り出したら、予熱で火を入れる。
サーロインの上のほうの部位を選ぶ。薄く広げたミニッツ・ステーキを、真っ赤に焼いたフライパンで、両面をサッサッと瞬間的に焼く。すぐに火を止め、肉はフライパンから取り出す。予熱で火を入れることで柔らかさを確保する。
火から離して,42℃ぐらいの室温で保温しながら休ませる。ゆっくりと火を入れることで、タンパク質の繊維が縮むこともなく、柔らかい肉が焼き上がる。分厚いステーキを焼くときは、芯央を62℃に設定して焼くといい。
2.ステーキの上にのせるブール・ド・カフェ・ド・パリを作る。常温でポマード状に柔らかくしたバターに、細かく刻んだ(A)と(B)を混ぜ合わせる。
上にのせるブール・ド・カフェ・ド・パリ。牛肉のリブやサーロインステーキには欠かせないソースだ。最初は1940年代にジュネーブのレストラン、カフェ・ド・パリで人気になった、クラッシックなバターベースのソース。
3.焼き上がったステーキの上に2をたっぷりと塗りつけたら、バーナーでソースに焦げ目をつけ、皿に盛る。
焼きあがったステーキの上にブール・ド・カフェ・パリをたっぷりとぬりつけ、バーナーでソースに焦げ目をつける。これによってバターソースの複雑な味がさらに引き立つ。レストランランステーキの王道とされるひと皿だ。
モモ肉のひとつである赤身のランプ肉は、筋肉のかたまりだ。ほとんど脂肪がないため、今、注目されている部位でもある。ゆるやかに火を通しても、生食としても人気が高い。
この肉にブルゴーニュのディジョンマスタードと黒粒コショウをまぶし、包み焼きでスモークする。これによって、肉は黒コショウの薫陶をまとうことになる。おいしさを積み重ねていくフレンチの技が要所に活かされたひと皿だ。さらに肉の表面のバクテリアが死滅し、コショウの殺菌効果で肉の酸化が防げるので、保存性は格段と長くなり、冷蔵保存で1週間ぐらいは軽くもつ。薄切りにしてヴィネグレットを薄く塗り、赤ワインヴィネガーの酢めしにのせた。牛のたたきのようでいて、フランスの香りのする一品。
材料(1人前)
ランプ肉(7cm×4㎝×16cm)…1本/ディジョンマスタード、黒粒コショウのエクラゼ、塩、白コショウ、ほうれん草の新芽、長芋のアリュメット…各適量/わさび…少々
赤ワイン酢めし
コシヒカリ…3カップ/水…3カップ/だし昆布(5㎝角)…1枚/合わせ酢〔赤ワインビネガー…240cc、砂糖…70g、塩…14g〕/醤油だし〔醤油…20g、日本酒…5cc、みりん…5cc、だしの素顆粒…少々〕/くるみオイル…大さじ2
ヴィネグレット
赤ワインビネガー…50cc/くるみオイル…60cc/醤油…40cc
作り方
Katsunobu Kitaoka
1947年、神奈川県逗子市出身。68年ホテルオークラ入社。フランス料理界の巨匠・故小野正吉に薫陶を受ける。アムステルダムのオークラを経てパリへ。77年、南麻布に「プティ・ポワン」を開業。2011年3月に閉店し、現在は一次産業の活性化と日本の食文化の再生、復興を目指し、料理サロンを開催するなど啓蒙活動に取り組んでいる。新渡戸文化短期大学客員教授。フランス国家農事功労章シュバリエ章を受勲、「現代の名工」卓越技能章授章。
Cuisine Kingdom=取材、文 依田佳子=撮影
本記事は雑誌料理王国2012年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2012年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。