「アルベラータ流!」黒毛和牛の火入れ


季節の野菜やソースを合わせ、牛肉本来の旨味とともに組み合わせの妙を楽しんでもらう

「ドライエージングを意識したことは、今までなかったですね」と、アルベラータのオーナーシェフ、高師宏明さんは話す。昔も今も、牛肉、とりわけ赤身をいかにおいしく提供するかだけを考えて、方法を模索してきた。そしてその試行錯誤もまた、料理人の醍醐味、と高師さんは笑顔を見せる。

「私がまず考えるのは、どんなひと皿を作るかです。それが決まって初めて、どういう肉を使うかを考えます。ですから私は、肉の段階からある程度は手をかけたいんです」

以前は、真空パックで仕入れた肉を袋から出して、肉用のガーゼを巻いて冷蔵庫に保存するなど、ドライエージングの方法を真似てみたこともあった。しかし、それではロスも大きい。

「ですから今は、あるところまで精肉店さんにお任せしています」

その精肉店は、岩手県花巻市の「きむら」。4年ほど前に知人を介して知り合った。

「店主の木村宏征さんは肉の目利きとして信頼できる方なので、今は彼と相談して、屠蓄後1カ月以上ねかせたものを送ってもらっています」

真空パックで送られてきたものは、自分の目で見てもう少しねかせたいと思えば、そのまま冷蔵庫に入れる。状態を見ながら、よいと思えるところで袋から出し、さらしに巻いて2、3日冷蔵庫で保存する。「袋のなかで少しずつ熟成させ、仕上げに水分を飛ばしてさらに熟成させるイメージですね。その後は劣化を防ぐためにサラダ油に浸けるなどして、1週間ほどで使いきります」

仕入れる牛肉は主に、岩手県や宮城県産の黒毛和種のサーロイン。それもサシが少なく、噛むごとに旨味が増す赤身タイプだ。そのほか、山形牛のランプや短角牛のサーロイン、山梨県産のワイン牛が加わる。野趣にとんだシカやイノシシも、羊、ハト、ウズラなどの肉、高師さんが好んで使う素材である。

「肉の魅力は、噛めば噛むほど味わいが増す点だと思っています。だからこそ、肉質がしっかりしていて個体差が激しい野性の動物は面白いですね。でも、牛肉で言えば、肉の魅力をいちばん表現できるのは、やっぱり赤身だと思うんです。実際、世間の嗜好も、とろけるような脂の甘味から、よく噛んで味わう赤身の旨味のほうに移ってきていると感じます」

そこに、季節の野菜やソースを加え、ひと皿のなかにさまざまな〝食〞の楽しみを盛り込むのが高師流だ。

今回も、ポルチーニとイタリア産黒米という、食感も味わいもまったく異なる食材を岩手県産黒毛和種のサーロインに合わせた。それは、食べるごとに違った肉の味が感じられるひと皿である。

黒毛和種の火入れ

和牛の約9割を占める黒毛和種は、肉質に優れ、細やかな霜降りがあるのが特徴だ。しかし、赤身の旨味が強い肉こそが旨い肉と考える高師さんは、あえてサシの少ない肉を使う。その分、焼きのときには肉と馴染みのいい背脂を使い、休ませるときにも背脂の上に置く。肉のパサつきを抑えるためだ。

脂が少ないために、火が通りやすい。そのため、こまめに火から下ろし、休ませながらじわじわと熱を肉の内側にまで浸透させる。こうすることで、中まで火は通っているがレアなでき上がりとなる。

こまめに火から下ろし絶妙な焼き上がりに

1 強火で肉の表面を焼く

塩、コショウをした肉に、ニンニクや香草を入れたサラダ油をまぶす。フライパンを熱して牛肉の背脂を馴染ませ、強火で肉の表面を焼いて、肉の旨味を閉じ込める。

2 背脂にのせて休ませる

牛肉の背脂の上に、表面をきれいに焼いた肉を置いて休ませる。肉の内側へゆっくりと熱を回すのが目的。肉の大きさによって異なるが,休ませる時間の目安は約3分。

3 再びフライパンで焼いて温める

休ませた肉を230℃のオーブンで、約2分半加熱。その後5分ほど休ませたら、再びフライパンで温めて、皿に盛る。仕上げに、肉やポルチーニと相性のいいローズマリーのオイルをかける。


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