「今行きたい、フレンチビストロ10名店」『オデコ』


多様化が進む東京のフランス料理界で改めて〝クラシック〞を尊重するシェフが増えている。「オデコ」の掛川哲司シェフもその一人だ。
クラシックからイノベーティブまで幅広いフレンチを習得し、プロデューサーとしての手腕も発揮する中で自身の40歳を機に未来を見据えて開店したのは〝これからの東京に必要になる〞店。フランス料理の文化や技術を次世代へとつなぐ。

掛川シェフが独立開業を考えていた頃に、東日本大震災は起きた。それまではクリエイティビティをいかに文化的に芸術的に料理で表現するかに注力していたが、食に対する考えが180度変わり、食事する喜びや人と食事することの幸せといった根源的なものにスポットを当てた、代官山「アタ」を開店する。

「オーベルジュ オー・ミラドー」や「ナリサワ」などで研鑽を積んだ掛川シェフが、ビストロ形式の店を開いたことは周囲を驚かせたが、その後もバルやカレー店、カフェといった暮らしに身近な店を手がけ、次々と人気店へと成長させた。一方で、進化し続ける〝東京のフランス料理〞のあり方に危うさを感じていたという。

アナゴのグリルとリード・ヴォー 焼きナスのクーリ

クミンの香りを添えた焼きナスのペーストに、ふわりと蒸したアナゴ、リード・ヴォーのフリット、エシャロットのフリットを盛り付ける。バーナーで火を入れるアナゴの香ばしさが立ち上がり、軽やかなアナゴを中心にさまざまな食感が重なる。蒲焼きをイメージしたという赤ワインベースのソースが甘く後を引き、どこか懐かしい印象を残す。



「今はもう一度〝文化〞を見直す時期。きっと僕らは素晴らしいシェフたちから直接フランス料理という文化や技術を情熱的に教えてもらえた最後の世代。それを次世代の料理人やお客様へしっかりと伝えていくためにスタートしたのが『オデコ』です」

伝統的な技術が丁寧に施されたクラシックなフランス料理を提供するが、「〝伝える〞ということを念頭に置いたとき、自由に選べる楽しさや、肩肘張らない気軽さは絶対に必要」と、メニューはアラカルトで、合わせるヴィンテージワインもグラスで味わえ、予約なしでもふらりと立ち寄れる席を用意するといった〝フランクさ〞も大事にする。


「いつも変わらずそこにあるという存在になることが今の目標。3・11 やコロナのような有事においても、扉をくぐれば最高の気分になれる。レストランはそういう場所。変わらないためには、変わり続けなくてはいけない。それこそ長年愛されてきた〝クラシック〞なスタイルではないでしょうか」


au deco
東京都渋谷区恵比寿2-23-3
TEL 03-6721-9218
18:00~23:00(最終入店)
日曜休

text: Yuki Kimishima photo: sono/bean


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