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ジョエル・ロブションの愛弟子が日本橋で目指すもの


2018年に逝去したジョエル・ロブション。愛弟子である朝比奈悟シェフの独立開業を目前としたタイミングだった。20世紀を代表するフランス料理の巨匠から紡がれた系譜が、さらなる「驚き」へと昇華する様をとくと味わいたい。

「実は、もっと早く自分の店を開きたいと考えていました」
店舗の場所が見つからないことが、朝比奈悟シェフの抱えていた大きな問題だった。そんなある日に訪れた兜町、東京証券取引所の裏手通りがパリの歴史的な街並みとリンクした。リーマンショックの影響が未だ残り閑散としていたが、盛り返しを見せつつもある。新しい「何か」が生まれる予感に満ちていた。49歳、再出発の地に相応しい。思い描くビジョン「伝統の継承と現代の革新」の欠けたピースに、カチリとはまった。

料理やサービスとの調和を図り、モダンとクラシックを両立させたという空間。ホワイトを基調にシルバーやグレーの意匠が施されており、エレガントな雰囲気に満ちている。

フランス料理の古典は、偉大なシェフたちが積み重ねてきた集大成だ。時代にそぐわず廃れつつあるのなら、そこには「改善の余地」が生まれるはずだ。
例えば、エクルヴィス=ヨーロッパザリガニを使用したソースナンチュア。「古来のレシピは重たすぎる」と、朝比奈シェフは軽やかな口当たりを意識した。重厚感が薄れた余白を埋めるために強めるのは、香りやうま味。北海道の阿寒湖から生きたまま取り寄せたウチダザリガニをふんだんに使用する。そこに合わせるのは白身魚のペーストを茹でた料理、クネル。ムースリーヌのように柔らかな食感を意識した。甲殻類らしい力強い風味を強調し、より鮮烈な印象を残すためである。リヨンの牧歌的な郷土料理をベースとしながら、さまざまなアイデアを詰め込む。伝統を守るためには、現代に即した革新が必要なのだ。

特製のソースナンチュアは通常のものより粘度が低い。その性質を利用しつつ、ソースの表面を大理石のような模様に仕上げていく。見た目には重厚感があるが、口当たりは軽い。

そんな朝比奈シェフ、以前は世界的に知られるグランメゾンの一角「ラ ターブルドゥ ジョエル・ロブション」の料理長として、ミシュラン二ツ星を7年間も守り続けてきた。尊敬する師が恵比寿ガーデンプレイスに築いた巨大な城である。
「いつか師と同じレベルのステージに立つ」。その目標を叶えるためには、お客さまを喜ばせ続けることが第一だと考えた。指標として定めたのはオープン1年目での星獲得だ。

2019年11月末日「ミシュランガイド東京2020」にて新規で星を得たのはわずか、20軒。そこには「ASAHINA Gastronome」が名を連ねていた。

すでにフランス料理界を牽引するシェフとしての地位を確立しながら「料理人の真価が問われるのは、自分の店を開いてから」と謙遜するように語る朝比奈シェフ。先人たちの努力が料理の伝統になったのと同じく、積み重ねた時間は店にも新たな格」を生み出す。朝比奈シェフが少しずつ築いている城が、街の再興を象徴する存在のひとつになる日も近そうだ。

ガラス越しでもキッチンの緊張感が伝わってくる。緻密な調理法を駆使するため、その方法論を論理的に伝えることができない。ゆえに技術を見せることにしたと朝比奈シェフ。

Menu List
a ズワイガニ エフィロシェにしコック貝と共にラルム仕立て
b 活帆立貝とトリュフのクルート そのタルタルをポム・ゴーフルで挟んで
c ラカン産ピジョン 胸肉のショーフロワ 腿肉のリエット、トリュフの香る茸のクーリ
d デリケートなズッキーニのタルト・フランベ
e カマスのクネル 阿寒湖のエクルヴィス ソースナンチュアを現代的思考で
f  ロゼール産仔羊のキャレ しっとりロティし、エピスを効かせたそのカイエット
g カルダモン香るラ・フランスの白ワインコンポート グラスカラメルと共に

a ズワイガニ エフィロシェにしコック貝と共にラルム仕立て
柔らかなズワイガニ、弾力豊かなコック貝。対照的な食感だが、共通するうま味が混ざり合う部分もあり面白い。日本とフランス、それぞれ特産の魚介類をかけ合わせた一皿。
b 活帆立貝とトリュフのクルート そのタルタルをポム・ゴーフルで挟んで
ぱりっと香ばしいパイ生地に包まれているのは、生の食感のままの帆立貝。トリュフの香りもフレッシュ。試行錯誤を重ねて体得したという非常に高度な火入れ技術の賜物だ。
c ラカン産ピジョン 胸肉のショーフロワ 腿肉のリエット、トリュフの香る茸のクーリ
コンソメゼリーやフォアグラに覆われているのは蒸した鳩の胸肉。本来は温菜であるメインディッシュを、柔らかな食感のまま冷製として提供するために創意と工夫が凝らされる。
d デリケートなズッキーニのタルト・フランベ
アルザス地方の郷土料理タルト・フランベを再構築。5層のタルトに刻んだ具材を敷き、2色のズッキーニで蓋をしている。食べるのに躊躇してしまう芸術的な料理。
e カマスのクネル 阿寒湖のエクルヴィス ソースナンチュアを現代的思考で
フランスの伝統料理を現代風にアレンジ。ザリガニに対する固定観念も覆るはず。日本の伝統技術、金継ぎをモチーフとしたフランス製の器が見事に調和している。
f ロゼール産仔羊のキャレ しっとりロティし、エピスを効かせたそのカイエット
網脂で包み焼いた肩肉、希少な胸線肉など、部位ごとの個性を使い分けた。インド料理を彷彿とさせる大胆なスパイス使いで、乳飲み仔羊のピュアなうま味を引き立てている。
g カルダモン香るラ・フランスの白ワインコンポート グラスカラメルと共に
食欲を引き立てるカルダモンの香り。キャラメルの甘み、洋ナシの果実感が見事に混ざり合う。ちなみに朝比奈シェフは国際大会のデザート部門で1位に輝くほどの腕前である。

ASAHINA Gastronome
アサヒナ・ガストロノーム

東京都中央区日本橋兜町1-4 M-SQUARE Bldg 1F
TEL 03-5847-9600
12:00 ~ 13:30 LO
18:00 ~ 20:30 LO
ランチ営業は金~日・祝日のみ水休


text 佐藤 潮 photo 竹内洋平

本記事は雑誌料理王国2020年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2020年2月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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