【保存版抗菌マニュアル】日本料理に宿る「抗菌」のDNA


日本料理をやっていて抗菌を考えて仕事をすることはほとんどない

抗菌を意識しない状況をつくる考えがすでに仕事に組み込まれている

乃木坂しん 石田伸二さん Shinji Ishida
1976年、徳島県出身。調理師専門学校を卒業後、徳島の日本料理店で15年かけて腕を磨く。その後、銀座の星付き店で5年間。同店がパリに進出した際には、その立ち上げのため渡仏。パリの店でソムリエだった飛田泰秀氏とともに帰国後、2016年6月に「乃木坂しん」をオープンした。「ミシュランガイド東京」で、2017年版以来、一ツ星を獲得し続ける。

「日本料理の料理人にとって、『抗菌』と聞くと、少しネガティブに捉えることが多いかもしれません」と言うのは、日本料理店「乃木坂しん」の料理長、石田伸二さんだ。物流や冷却システムが整った現代の日本料理界において、「抗菌を意識して調理をすることは、ほとんどない」からだ。「むしろ、抗菌を意識する状況にある方が問題だと自分たちは考えます」ともいう。例えば「届いた素材をすぐに使えない」「鮮度が落ちた食材を使わざるを得ない」といった状況は、抗菌より在庫管理を改善することで、食中毒のリスクを抑えられる。
「食材は、その日に使い切る。朝来たら冷蔵庫は空っぽ。夜帰るときも冷蔵庫は空っぽ。それが理想です」その一方で、薬味の抗菌性や化学物質との併用といった考え方自体は、日本料理の中にあるものだという。
石田さんのスペシャリテ「鯛のタタキ」は、その代表的な例といえるだろう。皮目を残したタイのフィレに塩をあててから昆布締めに。ひと晩置いて旨味をのせたら、皮目だけを藁焼きで炙って燻香をまとわせる。ワサビと塩を練った山葵塩を皮目にたっぷり塗って、石田さんの故郷・徳島県の名産スダチを添える。

ワサビと藁の燻した香りとともにタイを口に運ぶ。皮と身の間に脂がのったタイは、昆布締めによって旨味が深まり、山葵塩の旨味と塩味、スダチの酸味によって、それがよりはっきりと輪郭づけられる。ワインと合わせるためにも、お造りには醤油をつけたくない、という乃木坂しんのスタイルを象徴するひと品だ。
「どれもおいしさを求めた仕事です。しかし、ワサビや塩、スダチは抗菌、皮目を炙るのは殺菌に効果がある。自分の仕事は、自然と抗菌を根拠にしているのかもしれませんね
肉を焼いて起こるメイラード反応を「旨そう」と感じるのは、食べても安心という保証が含まれているからだ、と考える人もいる。日本料理の「旨そう」にも、抗菌の知恵が保証になっているのではないか。「そう考えると、日本料理には、抗菌のDNAが宿っている、と言えるのかもしれませんね」

ワサビと塩、スダチ(クエン酸)は、単独で使う場合、微量では抗菌効果が得にくい。だからといって、抗菌のためだけに、味のバランスを無視してまで量を増やしてしまっては、本末転倒だ。そこで注目したいのが、食材の併用による相乗効果。少量でも菌の増殖を防ぐことができる。
ワサビのツンと鼻に抜ける成分がアリルイソチオシアネートと呼ばれる辛味成分で、これに抗菌効果がある。揮発性が高いので、できるだけ食べる直前にすりおろす方が効果がある。

日本の魚とパリの魚を比べれば日本料理の本質が見える

魚がもつ水分量(自由水)が日本とヨーロッパではまったく違う。脱水も火入れも同じようにはできない

石田さんは、乃木坂しんのオープン前に、パリで1年半、日本料理店の立ち上げに参加していた。
「その当時、パリの日本人シェフから聞きましたが、日本に帰って、パリのように魚をしっかり焼こうとすると、身が崩れてしまう。それは、ヨーロッパに比べて、日本の魚には水分が多いからだそうです
魚を扱うことが多い日本料理では、魚の水分量、つまり素材がもつ自由水(https://cuisine-kingdom.com/jiyusui/)のコントロールが必要になってくる。石田さんは、「鯛のたたき」では、最初に塩をしていたが、これはその後で昆布締めにするため。水分を少し抜いた方が、旨味が入りやすくなると考えたからだ。毎朝、石田さんは、築地に行くが、そこで買ってくる新鮮な魚は、下処理後に塩はしない。個体を見極めて、調理法ごとに水分量をコントロールするのが日本料理だ。
一方で、魚の内臓には危険な細菌や寄生虫が多い。すぐに内臓を取り出すのはどのジャンルでも基本で、作業場所もきちんと区分けする。乃木坂しんでは、魚を扱うのは、石田さんともう一人の調理スタッフだけにし、二次汚染に注意を払っている。
「食中毒でもっとも気を付けているのは、いろいろなお料理に使うお出汁。緩慢冷却は危険ですので、急冷するようにしています。その方が、お出汁の風味も劣化しません」

塩をあてる

【味】身の水分を抜いて、昆布の旨味を入れるため
【抗菌】自由水を減らし菌の増殖を抑える

皮目を炙る

【味】藁の香りと焼けた香ばしさが旨味を引き立てる
【抗菌】危険な菌が付いている可能性がある皮目を加熱・殺菌する

山葵塩

【味】ワインに合わせるために醤油ではなく、山葵塩を塗る
【抗菌】ワサビと塩の相乗効果で抗菌力がアップ!!

すりたてのワサビに塩を加えて混ぜ合わせる。ディップのように、タイの皮目にしっかりと塗り付ける。皮目はしっかり熱を加え殺菌してあるが、さらに山葵塩を塗ることで、より抗菌性が高まる。

鯛のタタキ
昆布締めにしたタイの皮目だけを藁焼きにして炙り、香りをまとわせた。山葵塩を皮目に塗り、スダチを添える。付け合せのムラメにも抗菌効果がある。

スダチ

【味】酸味で全体をまとめタイの旨味を引き立てる
【抗菌】クエン酸とワサビの相乗効果で、抗菌力アップ !


Nogizaka Shin 乃木坂しん
東京都港区赤坂8-11-19 エクレール乃木坂1F
03-6721-0086
●12:00~13:30LO、18:00~21:30LO
●不定休
●26席
www.nogi-s.com


江六前一郎=取材、文 中西一朗=撮影
text by Ichiro Erokumae photos by Ichiro Nakanishi

本記事は雑誌料理王国第285号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第285号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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