イタリアンダイニング、ベーカリー、ジェラテリア、名湯、ここにしかない体験プランの数々̶̶ 。
江戸時代から続く大地主の屋敷をリノベーションし、土肥特有の産物の名を冠したオーベルジュは、地域全体を活性化させる役割を担う目的で生まれた。
駿河湾に面する伊豆半島西岸。東京や神奈川から気軽に行けて観光施設も豊富な東岸に対し、鉄道や幹線道路がない西岸は近くて遠い。美しい夕日や豊富なダイビングスポットなど、静かな自然美を求める人に愛されてきたエリアだ。
西岸中部に位置する土肥(とい)は、江戸初期より本格的に始まった金山の採掘・開発に伴い湧出した温泉によって栄えた。最盛期には国内トップの佐渡金山に次ぐ産出量だったという。しかし昭和40年に金山が閉山、当時8000人ほどだった人口が現在は3000人まで減っている。
そんな鄙びた温泉郷の土肥に、一昨年開業したオーベルジュが話題を呼んでいると聞き、訪れた。天城(あまぎ)連山を越えて土肥に入ると、町のそこかしこにたわわに実った枇杷の木があって心が躍る。
「土肥特有の品種、白枇杷です。町のシンボルにあやかり、当施設は枇杷の英名を名付けました」と、経営母体である株式会社アース・新規事業推進部の三浦崇聡さん。
同社はホテル・旅館の事業継承、歴史的建築物や文化資源のプロデュース、オフグリット型居住モジュールWEAZER(ウ ェザー)の開発などを通して地域創生を行っている。
「ここは、天城の木炭を海路で江戸へ運送する事業で成功した大地主の屋敷でした。地域に貢献し、人々に慕われ、多くの人が集まる場所であったという歴史を踏まえ、宿泊客だけでなく地元の方や観光客にも気軽に楽しんでいただける場を作る創生プロジェクトです」
約730坪の敷地に母屋と3つの蔵、木々が茂るテラス、白枇杷の古木がある裏庭。蔵の2つは2名1組ずつの客室で、残り1つは、日中はエステサロン、夜は地元の柑橘のカクテルなどを提供するバーに変身する。
小屋組みを見せた天井や繊細な欄間が美しい母屋はイタリアンのメインダイニングで、パンとジェラートのショップ「サンティ」を併設。ダイニングはランチも営業し、昼夜とも外来客を受け入れている。
シェフは「アロマフレスカ」各店で経験を積み、名古屋店でシェフを務めた大関淳士さん。
「出勤前に湯ヶ島の滝尻わさび園や天城軍鶏の堀江養鶏に立ち寄り、小土肥の川でクレソンを摘み、店の近くの特売所『ありがとう』をのぞき、休日は三島市の『伊豆・村の駅』へ足を延ばす……そんな生活が楽しい。伊豆の国市の天城黒豚、富士宮市の北山農園野菜や朝霧高原の岡村牛、沼津港の魚介など、伊豆周辺を含めた地元食材で日替わりコースを組み立てます」
白枇杷狩り&酒造り、蛍鑑賞、近隣の宿泊施設と提携した 泊食分離プラン、地域住民向けのテーブルマナー教室や特別価格のお試しディナーなど、独自のプランを提供している。今後も土肥にある空き家や宿泊施設を有効活用して、地域全体の活性化に尽力したいとのことだ。
大関淳士
1976年、福島県生まれ。「カルミネ」などイタリア料理店数軒で経験を積み、2001年「アロマフレスカ」に入る。本店をはじめ系列店を回り、名古屋の店ではシェフを4年間務める。2021年「ロクワット西伊豆」開業時よりシェフに就任。
静岡県伊豆市土肥365
TEL 0558-79-3170
月1回不定休
■宿泊
チェックイン15:00~18:00
チェックアウト11:00
レストラン
11:30~15:00(14:00LO)
18:00~22:00(20:30LO)
■ショップ(サンティ)10:00~16:00
text: Yumiko Watanabe photo: Hiroyuki Takeda