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トップシェフのハーブの使い方 ルカ・ファンティンさん


料理に立体感をもたらし、季節の息吹を吹き込むスパイス、ハーブ

ルカ・ファンティンさん
ブルガリイル・リストランテルカ・ファンティン

季節感、ナチュラル感の創出に欠かせない存在


 特有の芳香で、味わいで、色彩で、古来より人類を虜にしてきたスパイス、ハーブは、時空を超えて現代の食に奇跡の魔法をかける。スパイスは世界に数百、ハーブに至っては万を超える種類があり、まさに百花繚乱の様相。気鋭の料理人たちは、テクニックと想像力の限りを尽くしてその果てしない可能性を追求し続けている。

 5年連続でミシュランの一ツ星を獲得し、“もっとも洗練されたイタリアン”として人々を魅了する「ブルガリイル・リストランテルカ・ファンティン」。エグゼクティブシェフ、ルカ・ファンティンさんによる、現代的なラグジュアリーと伝統をあわせ持つブルガリの世界観を食の芸術で表現する、見事なクリエーションはつねに世界中の注目の的である。

さまざまに調理した旬野菜
何十種類もの旬の野菜、フレッシュハーブ、エディブルフラワーを贅沢に用いた、目に、舌に麗しい一品。四季折々の刹那を切り取ったひと皿には、「季節の声を聴く」というコンセプトが凝縮されている。火入れの方法を変えつつ、さまざまな味を楽しめるよう工夫を凝らした野菜にハーブの持つ個性的な味と香りが加わり、見事なバランスを創出。季節によって組み合わせる素材を変えながら、つねに進化させているスペシャリテである。

 そんなルカさんにとって、スパイス、ハーブは、自身が大切にしている繊細な季節感、ナチュラル感の創出に不可欠なエレメントだ。「それぞれに独創的な味と香りは、料理に立体的な広がりをもたらしながら、みずみずしい季節の息吹を吹き込んでくれます」。加えて、味覚、視覚、嗅覚の三感に訴えかけてトータルインプレッションを高めてくれる、かけがえのない存在であるという。

 ルカさんがスパイス、ハーブに対する造詣を深めたのはスペイン時代。「『ムガリッツ』には自前の菜園があり、シェフたちでさまざまな野菜やハーブを育てていたんです」

 自ら手をかけて育てた食材を用いて、使い方や組み合わせのバリエーションを思いのままに試せる機会を得たことで、それまで学んできた知識に経験という裏付けを加えることができ、自信をつけたという。

 美しい黄金色とエキゾチックな風味をサフランで、高原のような清涼感をシトラス系のハーブで、淡い辛味と華やぎをピンクペッパーで……豊富な知識と経験を土台に、魔術師のごとくスパイス、ハーブを操る。使い方のルールは決めておらず、重視しているのは「お皿のコンセプトに合う味、香り、色彩を表現できるかどうか」であるとか。

旬のもの以外は使わない自分で探した素材だけを使用
セダノラーパ、トマト、パルミジャーノのクリームを敷いた上に、味、香り、彩りが三位一体となるようバランスには細心の注意を払いながら、ひとつひとつ素材を盛り付けていく。「重要なのは、多くの種類の素材を使うことではなく、いかに季節を表現できるか」

旬であることとイタリアの味であることへのこだわり

 では、コンセプトはどこから生まれるのかといえば、曰く「季節の声」であるという。季節の声は、旬の食材を通してもたらされ、料理人魂を心地よく揺さぶる。巡る季節がその時々に届けてくれる宝石をどう生かすか。それを起点にあらゆる方向へ料理のイマジネーションは広がっていく。

 ゆえに、フレッシュハーブへのこだわりは並々ならぬものがある。「屋外で、正しい季節のサイクルを経て育った旬のものしか使いません」ときっぱり。さらには、幼い頃から慣れ親しんだイタリアのトラディショナルな料理を信条とするルカさんにとって、イタリアの味に限りなく近いことも譲れない条件である。

「ただし、“イタリア本来の味”を探すことは相当な努力が必要でした」

毎日開店前に全国各地から採れたての野菜が届く。この日は野菜40種類、エディブルフラワー30種類、ハーブ60種類を仕入れた。自身も「大の野菜好き」というルカさん自らが吟味を重ねて選んだ品々は、鮮度、品質ともに一級品である。

 来日したばかりの頃は言葉もままならず、土地勘もなく、つてもない。そんな中でルカさんは、熱心に御眼鏡に叶う生産者の開拓に力を注いできた。多忙な合間をぬって情報を集め、地道にパートナー探しを続けてきた結果、現在は満足できる仕入れの体制が整っているそうだ。

「日本で生産されているハーブ、スパイスのクオリティは極めて高く、種類も豊富なのです」。全国の農家やハーブ、スパイスの専門業者とコンタクトを取ったルカさんの実感である。そして「ですから、鍵になるのはいかにして自分が求めるものを探し当てることができるか。そのための労力を惜しんではいけません。相手から出向いて来て教えてくれることなどないわけですから」と続けた。

 近年では、新たな試みとしてハーブのピューレやハーブオイルなどの開発にも挑戦。次ページで紹介しているカレンデュラのピューレは今年の新作である。
 とどまることのない探究心とともに、比類のないオーセンティックなイタリア料理はさらに進化し、深化していく。

トマトウォーターのリゾット
パルミジャーノとスパイス

ブロードにトマト、ペコリーノ、パルミジャーノ、野菜、チキンの5種類を用いた、濃厚でふくよかな味わいのリゾット。サフランオイルを底に敷き、軽く火を入れてマイルドにした、オレガノ、ブラックペッパー、クミン、ピンクペッパー、アニスシードをトッピング。トマトウォーター、パルミジャーノの味がアロマティックなスパイスを通してエレガントになり、長く舌の上に残って楽しめる。見た目はシンプルながら味わいは複雑、これぞコンテンポラリー料理の神髄である。

フェリチェッティ
スパゲッティ ウニ

極上の赤ウニを贅沢に使ったパスタは、ウニの色に劣らぬ艶色をしたカレンデュラのピューレをかけていただく。「カレンデュラ」は南ヨーロッパが原産のハーブで、和名は「キンセンカ」。ほんのり上品な苦味があり、ウニの甘味とのバランスが絶妙。パスタは品質の高さで知られるイタリア・フェリチェッティ社製で、ゆでる際にもフレッシュ感を出すためにハーブを活用している。

Luca Fantin
ヴェネト州トレヴィーゾ出身。イタリア内外の一流レストランで修業を積み、スペインのミシュラン二ツ星レストラン「アケラッレ」「ムガリッツ」にてメイン料理を担当。ローマの三ツ星レストラン「ラ・ペルゴラ」の副料理長を経て、2009年に「ブルガリ イル・リストランテ」(現「ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン」)のエグゼクティブシェフに就任。2011年より、日本のイタリアンで唯一のミシュラン一ツ星を獲得している。

ブルガリ イル・リストランテ ルカ・ファンティン
BVLGARI Il Ristorante Luca Fantin
東京都中央区銀座2-7-12 ブルガリ銀座タワー9F
03-6362-0555
● 11:30~14:00LO 土、日、祝は14:30LO 18:00~21:00LO 日、祝、連休最終日は11:30~14:30のみの営業
● 不定休
● 54席
www.bulgarihotels.com


乾麻里子=取材、文 宇都木章=撮影

本記事は雑誌料理王国第264号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第264号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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