1995年にイタリア・エミリア=ロマーニャ州モデナに「オステリア・フランチェスカーナ」をオープンしたマッシモ・ボットゥーラ。彼は現在、ミシュラン三ツ星、ガンベロロッソ3フォーク、世界のベストレストラン5位など、数々の栄誉に輝く世界的に有名なシェフとなった。伝統的な郷土料理を敬愛するイタリアの料理界にも、ここ数年、「クチーナ・インノヴァティーヴァ(革新的料理)」に挑戦するシェフが登場。なかでもマッシモはこうした革新派の旗手として、イタリア料理界に新風を吹かせている。
「私の人生には3つのパッションがあります。それは音楽、コンテンポラリーアート、料理。私が料理を作る上で大切にしているのはこうした〝カルチャー〞。料理にはもちろんテクニックも大切ですが、カルチャーはほかの誰からも与えてもらうことはできません。自分自身がそれを持っているかどうか、その違いで料理人の質が決まります。持っていればさまざまな想像力が膨らんで、舌と頭がつながる料理を作ることができるのです」
今年9月にリニューアルオープンしたモデナの店は、斬新な現代アートが飾られたギャラリーのような空間となった。彼自身も時には繊細に優しく、またある時は熱狂的に料理を創造する、まさに芸術家気質の料理人である。
料理を作る時、マッシモはバリアやボーダーをすべて取り払って料理を考えるという。このイタリアのトップシェフは2000年の夏の間、スペインの「エル・ブリ」の厨房に入り、フェラン・アドリアとともに過ごした。その理由は「アバンギャルドでコンセプチュアルな考え方を知るためだったという。
「アバンギャルド=前衛は、すべて忘れることが大事。ただし最初にすべてを知る事も大事なのです。このアプローチなくして創造は生まれません。イタリア人は過去を振り返り『昔はよかったね』という見方をします。でももっと建設的になって、過去の中で良かった物だけをひとつひとつ取り出して、いいものだけを将来に継承していくほうがいい。このプロセスこそが、私は料理を作るうえで大事だと考えています」
いつの時代にも「革新」には批判がつきものだ。イタリア料理のさまざまな可能性を探ってきた彼も例外ではない。1993年、モデナのトラットリアでの修業時代のこと。彼は熟成期間の異なる5種類のパルミジャーノ・レッジャーノだけを使って、ひとつの皿の上で表現するという実験的な料理を作った。地元で伝統的に作られるチーズの熟成の違いが、どんなふうに味の変化をもたらすのかを知るためだったという。しかしそれを見た周囲の人々は、冗談と勘違いしたかのように彼を笑って見ていたという。あれから20年経ったが、あの頃の探究心が、今のマッシモの原動力となっている。
そんなマッシモが若いシェフに向けてメッセージを送る。
「今の若い料理人たちは、早く有名になって認めてもらいたいと結果を急ぎ過ぎる。もっとじっくりと時間をかけて学んでほしい」
かくいう彼も、現在のように世に認められるまでは、決してスムーズな道のりだったわけではない。
「将来シェフをめざす人は、自分のバッグにつねに3つの食材を入れておかなければならない」と、マッシモらしいユニークな表現で話してくれた。
その3つの「食材」とは……
1.謙虚さ。謙虚であると人のことがよく見え、話に耳を傾けることができる。そこから新しい発想が生まれる。
2.パッションを持つこと。パッションがあればどこにだって行ける。
3.夢を持つこと。経済情勢が厳しい今という時代にあっては、もっとも難しいことだが、夢がなければ垣根を取り払うことができない。
フェラン・アドリア率いるG9メンバーの一員として、今後、若い料理人のための教育支援をサポートしていくというマッシモ。その熱いパッションに期待したい。
Massimo Bottura
マッシモ・ボットゥーラ
1962年イタリア、エミリア=ロマーニャ州生まれ。モデナのトラットリアを経て、フランス・モナコ「ルイ・キャーンズ」で修業。 1995年、モデナに「オステリア・フランチェスカーナ」をオープン。 2012年ミシュラン三ツ星獲得。 2011年に2号店となるカジュアルスタイルの店「フランチェスケッタ58」をモデナにオープン。
「オステリア・フランチェスカーナ」が今秋内装をリニューアル
名車フェッラーリで有名なイタリア、エミリア=ロマーニャ州モデナは、バルサミコ酢の名産地であり、イタリアを代表する美食の町として知られる。そんなモデナにある「オステリア・フランチェスカーナ」 の店内には、コンテンポラリー・アートを愛するマッシモらしく、個性的な作品が飾られ、まるでギャラリーのよう。「料理を主役にしたいので、テーブルの中心にスポットライトが当たるようにしました。料理が打ち上げ花火のように一瞬で終わるのではなく、料理の本質をお皿の中に盛り込んで、それをお客さまに見てもらいたい」とマッシモ。
沖村かなみ=文 岡本寿、富貴塚悠太=写真
本記事は雑誌料理王国第220号(2012年12月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第220号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。