職人の技と経験が最高のモッツァレラを生む


あせりは禁物 練り上げの一瞬を待つ

1968年にアントニーノ・ポンティコルヴォさんが創業した同社は、現在その息子であるマッシモさんとルカさんが引き継いでおり、父親の精神を継承し、機械に頼らない伝統的な製法を続けている。

モッツァレッラ作りは、原料となる水牛乳を72度と36度、2回殺菌することから始まる。 「まず、水牛乳の味を落とさないギリギリの温度72度で18分間。そこから温度を下げ、36度を保ちながら1日かけて低温殺菌します。これで大きく強い菌からブルセラ菌などの小さな菌までを死滅させます」と、弟のルカさんは説明する。殺菌を終えた水牛乳を、鋼の桶に入れ、3%のホエー(乳清)とタンパク質分解酵素の一種であるレンニンを加え、カード(凝乳)とホエーに分離させる。その後2時間から3時間寝かすと、木綿豆腐のようなカードが浮き上がってくる。「カードの水分量をきちんと見極めないと、旨いモッツァレッラの条件である『弾力ある食感』がだせなくなってしまうんだ」

マッシモさんは桶から少量のカードをすくいあげ、95度の熱湯をかけて練り、状態を確認する。1メートル以上伸ばしてもちぎれず、向こうが透けて見えるまで薄く伸ばせる状態がベスト。それまでじっと時を待つ。「よし大丈夫だ」と言うと、マッシモさんは、一気にギアをあげる。

サクラの木でできた直径1・5メートルほどの桶にカードを入れ、95度の熱湯を加える。ここからは熱と時間との戦いだ。熱湯で90度近くになったカードを手桶と杓子を使って素手で練り上げる。少しずつ乱れていくマッシモさんの呼吸に比例するかのように、ボロボロだったカードが、みるみるうちに姿を変えていく。およそ10分。つややかで美しいモッツァレッラが生まれた。

この練り上げに3年前から携わっているのが、マッシモさんの息子アントニーノさんだ。23歳の青年は練り上げの難しさをこう表現する。「何分練ればいい、というものでもありません。その日の気候によっても微妙にかわるので、折々の判断が必要になります。練りながらカードの抵抗を自分の筋肉で感じて、このタイミングだ、という瞬間を見極めるんです。ここが一番難しい」

練り上げられた生地は、すぐに水につけて温度を下げ、一つひとつ手で引きちぎって形成する。さらに塩水に1時間半から2時間漬けておく。「モッツァレッラの味は、しっかりと塩を入れることで決まる。この塩味が水牛乳のミルキーな味を強調します」と、ルカさん。

ちなみにイタリアでは、モッツァレッラを冷蔵庫で保存しない人が多い。冷やし過ぎると味わいが損なわれるからだ。つまり、チーズ製造後の温度管理も重要なポイントだ。

「塩味」と「食感」。乳の味わいを強調しやわらかく
弾力のある食感が旨いモッツァレッラの命だ。

モッツァレッラの語源になったと言われる「引きちぎる(mozzare)」作業。二人一組でテンポよく、1つ約250ℊのチーズに引きちぎっていく。工業化、能率化が優先される現代にあって、カセイフィーチョポンティコルヴォ社では、チーズの生産に関する多くの行程、とくに製造部分のほとんどを伝統にもとづき手作業で行っている。

分離したカードは、少量を練り上げて伸縮性をチェックする。分離が甘いと、チーズの伸びが悪くなり、弾力のある食感のチーズに練り上げることができなくなる。95℃の熱湯をかけながら練るため、熱さとの戦いでもある。写真はマッシモさんの息子のアントニーノさん。

分離したカード。

引きちぎって成型を終えたチーズは、練り上げで残った液体水から脂肪を取り除き、塩と乳酸を加えた塩水に漬けられる。塩分濃度は10%。大きさにより漬ける時間は異なり、250ℊなら1時間半~2時間漬ける。

あえてDOP認定を拒否。真の意味で原産地にこだわる


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