職人の技と経験が最高のモッツァレラを生む


あえてDOP認定を拒否。真の意味で原産地にこだわる

モッツァレッラ発祥の地、と呼ばれるカゼルタを含むカンパーニア州産のモッツァレッラは、DOP(原産地呼称制度)によって製法がしっかりと保護されている。しかし、ポンティコルヴォのモッツァレッラはそのDOP認証を受けていない。なぜなのか。その理由について、ふたりは「認定を受けるためには、決められた機関から水牛の乳を買う必要があるから」と言う。

「うちでは創業以来、アルヴィニャーノ周辺の農家の水牛乳を使ってきた。この辺りのトウモロコシや大麦などの穀物を食べて育った、健康でストレスのない水牛たちのおいしい牛乳。それがおいしさの鍵」守ってきたその原則を崩してまでDOP認定は受けたくないのだ。

イタリアでは現在、産業廃棄物の不法投棄などによる環境破壊が、大きな社会問題になっている。カンパーニア州でも土や空気、水、自然の恵みが汚染され、安全な土地そのものが少なくなっている。そんな中で、アルヴィニャーノは、最後に残された美しく清らかな地なのだ。

「父は、私たちカセイフィーチョポンティコルヴォ社を愛してくれる多くの人たちを残してくれました。アルヴィニャーノの自然の中で、生産者とつながり、素材にこだわり、手作りにこだわり続けたい。安易に妥協しないねばりと努力が、私たちのモッツァレッラを支えている」と、マッシモさんは言う。

職人たちの伝統の技と気概を心底理解し、「本物の味」を届けたい――。ポンティコルヴォのモッツァレッラを輸入する佐勇は、週3回航空便を使って日本に届ける。

「飛行機に間に合わせるため、練り上げは前日から始め、夜を徹して行う。そして朝8時には出荷。大変なことだけど、最高のモッツァレッラを届けたいという日本の熱意に私たちは応えたいんだ。それはこのチームだからこそ実現できることだと確信している」とマッシモさんは胸を張る。こうした日々の努力が繰り返されるからこそ、ポンティコルヴォの旨いモッツァレッラは、日本の食通の心を捕えて離さないのだ。

『自分の筋肉に伝わる生地の抵抗力を感じ取る。もっとも重要な「練り上げ」は生地と職人の対話によって行われる。』

現代のモッツァレッラ作りではステンレス製の桶が主流であるが、木桶にこだわる。「木の中に棲む菌がチーズの味を作る。伝統的な製法の中にこそ旨いモッツァレッラを作る理由があると信じている」とマッシモさん。

左からルカさん、アントニーノさん、マッシモさん、ルカさんの息子アントニーノさん。親子2代でポンティコルヴォの伝統を受け継ぐ。

『創業者である父が残してくれたアルヴィニャーノの生産者たちとの信頼関係。この宝物が、今の私たちに大きな力を与えてくれる。』

中世に戦略上の拠点となったアルヴィニャーノ城から町を望む。モッツァレッラチーズのほか、地ビールが有名。ナスやパプリカなどの野菜の栽培も盛んだ。

ルカさんが、ポンティコルヴォ家が移住してきた最初の家を案内してくれた。「ここから我が家のチーズ作りが始まったんだ」。

周囲を山に囲まれた農場の地下200mに、ミネラル豊富な伏流水が流れる。これをポンプで引き揚げ水牛の飲み水にしている。

『モッツァレッラにも〝旬〟がある。春と秋。それは水牛にとってもっとも過ごしやすい季節。水牛のストレスが牛乳の品質を左右するからだ。』

大豆や麦などの穀物、トウモロコシなど自然発酵させた国産の飼料(上)に麦わらを加えた飼料を与える。「飼料によって乳の味は変わります。発酵の進みが悪い飼料を食べた水牛の乳は、緑がかって酸化したような味になります。つまり、良質な飼料が、旨い水牛乳を作り、それがモッツァレッラの味となるのです」と、農場で働くアルマンドさん。

オーナー
マッシモ・ポンティコルヴォさん

15年前から日本と取引をしていますが、安心で安全、おいしい商品を作れば、日本の企業やシェフたちはしっかりと評価してくれる。そういった意味で、イタリアでは日本の企業と取引していること自体が尊敬され、ステータスでもあります。最初は週2回の空輸便でしたが、商品が認められ人気も出たため、7年前から週3回行っています。フレッシュさを保つためは、輸送の温度管理やスピードがとても大切です。

オーナー
ルカ・ポンティコルヴォさん

旨いモッツァレッラには、塩味と食感が重要です。やわらかいのに弾力がある。これは、練り上げの技術によって決まります。じつはモッツァレッラにも旬があるのを知っていますか? モッツァレッラ作りでは水牛乳の質が大切ですから、水牛にとって過ごしやすい4~6月と9~10月の乳はことに良いんです。飼料の質も良くなり、気候的にもチーズを作りやすい環境になる。もっとも、うちのチーズは1年中自信を持ってお勧めできます。

ブッファラ製造担当
アントニーノ・ポンティコルヴォさん

マッシモさんの息子アントニーノさんは、水牛乳製のモッツァレッラの製造を担当。現在23歳。「中学生の頃から夏休みになると手伝いをし、高校卒業後に入社。2年目からすぐに練り上げを始め、今年で3年。伝統の製法と技術を継承していきたいです」。

フィオーレ ディ ラッテ製造担当
アントニーノ・ポンティコルヴォさん

ルカさんの息子アントニーノさんは、牛乳製のモッツァレッラの製造を担当する。現在22歳。「牛乳から作るモッツァレッラは、機械化された部分もあります。しかし、機械に頼りすぎず、職人の目で厳しくチェックする。これが品質を守る術です」。

カセイフィーチョ ポンティコルヴォ
CASEIFICIO PONTICORVO
モッツァレッラ ディ ブッファラ
MOZZARELLA DI BUFALA

250g、125g、40g、25g
約40年間変わらぬ製法を受け継ぎ、天然由来の凝固剤以外は一切使わないことを徹底している。しっかりとした弾力と歯ごたえがあり、塩味のなかから、噛みしめるほどに脂肪分の旨味が出てくる逸品。

お問い合わせ先
株式会社 佐勇

☎03-6804-5103 www.sayu.jp

Cuisine Kingdom=取材、文 星野泰孝=撮影

本記事は雑誌料理王国242号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は242号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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