新時代の和食料理人「野田」野田雄紀さんが現地で見た、躍進するポルトガルのワインと食 ②強みは豊かな食材。個性あふれるシェフ達も登場


ポルトガルは日本に初めて西洋文化をもたらした国、かつ親日国である。ポルトガル人が種子島に漂着した1543年以来、主に「南蛮貿易」を通してポルトガルと日本は交流を続け、日本の食にも少なくない影響を与えた。ここでは「日本料理の歴史をひも解くうちにポルトガルへの興味が深まった」と語る東京・原宿「野田」オーナーシェフ・野田雄紀さんが、2024年秋念願だったポルトガルを訪問した模様を2回にて紹介。2回目はポルトガルの食、レストランシーンがテーマだ。
(第1回「①ポルトガルのワイナリーは今、イノベーティブ!」はこちら

ワインを愛する人々が楽しむ最新ダイニング&ローカルフード

ワインと共に野田さんが関心を寄せたのが、ポルトガルの最新ファインダイニング、そして地元の人たちが日常的に楽しむローカルフードだ。

「僕が今挑戦している現代的な要素をプラスした日本料理は、世界に受け入れていただけるものだと信じています。ポルトガルの素材や伝統料理をモダンに昇華して、世界で評価されている料理を体験してみたい」

ポルトガル南部、アルカルヴェ海岸に面したリゾートホテル内のレストラン「オーシャン」

ポルトガルの最新ファインダイニングをいくつか訪問してみると、ふたつの傾向があった。一つはオーセンティックなポルトガル料理や郷土料理をベースに、イノベーティブに再構築した料理。もう一つは、野田さんがポルトガル料理からインスピレーションを得たいと考えるのと同様に、東洋の食文化からヒントを得て、それを自分のクリエーションに落とし込もうとするシェフたちによる料理だ。

「ザ イェットマン」のシェフ、リカルド・コスタさんと料理

ポルトの二つ星「ザ イェットマン(The Yeatman)」など国内で数店を手がけるスターシェフ、リカルド・コスタさんによるモダンなポルトガル料理は、前者の例。伝統的な調理法でポルトガルのすばらしい食材を引き立てる料理がコンセプトだ。

オイルはオリーブオイル。これにニンニクと玉ねぎを加えるのが、ポルトガル料理の味のベースだそう。コリアンダーやスパイスを日常的に多用するのも、ヨーロッパではスペイン料理とポルトガル料理に特に見られる特徴だという。

「ベルカント」のシェフ、ジョゼ・アヴィレスさんは、伝統料理を現代的に表現

リスボンの二つ星でポルトガルから唯一「世界のベストレストラン50」にランクイン(2024年版31位)している「ベルカント(Belcanto)」は、ポルトガルの歴史を織り込みながら豊かなワインと食材を世界レベルで発信するショーケース的なレストランだ。

ポルトガルを代表するシェフのジョゼ・アヴィレスさんは、ポルトガル各地の地方の伝統と魅力を洗練されたかたちに再構築してメニューを構成する。

「料理とは、その土地の歴史と文化の集大成であり、人々のアイデンティティそのものです。つまりポルトガル料理の価値を高めることは、歴史あるポルトガルの食文化をより発展させ、人々が自国に誇りを持つことに繋がるわけです。私の活動は、必ず国の未来のために役立つと信じています」とジョゼさんは言う。

「フィフティー セカンズ」はアフリカやアジアの調味料を使うなど、発想のスケールの大きさを感じさせる料理。シェフのルイ・シルヴェストレさんは、若手ながら実力が高く評価されている。

リスボンの一つ星で、ミシュラン ポルトガルのベスト ソムリエ賞を受賞している「フィフティー セカンズ(Fifty Seconds)」は、地上120mの絶景を楽しめる今もっとも話題のダイニング。

ポルトガルのシェフとして史上最年少で星を得たルイ・シルヴェストレさんは、近海のシーフードなどポルトガルの食材をメインに使いながらも、調理法はポルトガルの伝統にこだわらず、アフリカやインド、東南アジア、東アジアまで世界のエッセンスを散りばめる。さながら大航海時代の大冒険を思わせる独創的な料理が楽しい。インドのゴアなどでは今もポルトガルの影響が色濃く残っているが、ポルトガルの食卓にもまたインドの面影がある。

「オーシャン」では、ポルトガルに魅せられたオーストリア出身のシェフ、ハンス・ノイナーさんによるクリエイティブな料理を楽しむことができる。

アルガルヴェ地方の二つ星で、ミシュラン ポルトガルのベスト サービス賞を受賞している「オーシャン(Ocean)」は、星を得るミッションを受け数年だけ赴任するつもりでやって来たオーストリア人シェフ、ハンス・ノイナーさんが、ポルトガルの豊かなワインと食材に魅了され、すばらしいレストランを作り上げた。

世界中110カ国を旅して得た知識と経験に基づき、ポルトガル全土の生産者を回り、地域と連携しながら毎年ひとつの国や地域をテーマに設定して、ストーリーのあるドラマチックなコースを数カ月かけて作り上げる。

なおポルトガルはサステナブルな観点から、たとえばウナギの稚魚は獲ってはいけないなど法律によって定められているため、とりわけ地元の漁師とはコミュニケーションを深め、環境に配慮した魚介の仕入れを行っている。

ポルトガルのシーフードは世界一ってほんと?

カジュアルなダイニングで印象的だったのが、ポルトガル語で「火」を意味する「フォゴ(Fogo)」。リスボンの一つ星のモダンポルトガル料理「ロコ(Loco)」を手がける人気シェフ、アレクサンドレ・シルヴァさんが手がける薪焼き料理のレストランだ。

「同じ東京・渋谷区にある日本料理店で、お魚を大切にしていらっしゃる。尊敬する先輩です」と野田さんが言う「傳」の長谷川在佑さんが「ポルトガルの食材のおいしさをそのまま味わえる」と推す一軒だ。

「フォゴ」のシンプルな薪焼き料理。

「ポルトガル料理といえば、大航海時代に保存食として生まれたバカリャウ(干しダラ)や炭火で焼いたイワシなどは知っていましたが、タコやイカ、貝類、魚卵まで、これほどさまざまなシーフードが食卓に組み込まれているとは予想以上でした」

ちなみに、シーフードを注文するとどのお店でも「それはいいチョイスです。ポルトガルのシーフードは世界一ですから」と、サービススタッフは胸を張る。日本人の筆者としてはとても負けてはいられないのだが…。

多種多様な海産物を食べる文化があるのは、日本もポルトガルも同じ。

「ベルカント」のジョゼさんによると、世界を知るファインダイニングの料理人は、日本を訪れたり、日本の料理人との交流を通して活け締めなどを知り、日本の水産業に携わる職人の技術力の高さをよく理解している。日本とポルトガルを比較すると、海域による魚の種類の違いはあるが、例えばポルトガルで水揚げされたマグロが日本に輸出されていることからも、魚自体のはクオリティは高い。

しかし技術力はまだ発展途上であり、ポルトガルの水産業は、日本をはじめ世界から学ぶことも多い。「ポルトガルのシーフードは世界一の品質」は、いわば未来に向けたスローガンになっているそうだ。

「世界中みんなが『世界一』を目指して自国の海を守り、サステナブルな漁をしながら、自分たちの魚介類のクオリティを高めていく。そうすれば未来の海の環境も改善されるのではないでしょうか」とジョゼさんは言う。

活気あふれるリスボンの市場

ワインをきっかけに、ポルトガルの多彩な食の背景を知った野田さんの旅。米の扱い方、パンの存在意義、豚肉のバリエーションなど、ここには書ききれない多くの発見があった。さらに「ポルトガルの人のきめ細やかなおもてなし、ホスピタリティの充実は日本と共通すると思います」。

親日国を旅する心地よさまで味わったポルトガル。いくつもの温かい出会いを得て、野田さんにとってポルトガルは「これからもたびたび訪れたい大好きな国」の一つになった。

2023年に日本とポルトガルは交流480周年を迎えたが、この先490周年、そして500周年で、野田さんはどんな料理を作り上げていくのだろう。料理は国境を超えて未来へと繋がっていく。

ザ・イェットマン The Yeatman
Rua do Choupelo, Santa Marinha, 4400-088 Vila Nova de Gaia, Porto, Portugal
https://www.the-yeatman-hotel.com

ベルカント Belcanto
Largo de São Carlos 10, 1200-410 Lisboa, Portugal
https://belcanto.pt

フィフティー・セカンズ Fifty Seconds
Torre Vasco da Gama, Cais das Naus, Lote 2.21.01, 1990-173 Lisboa, Portugal
https://www.fiftyseconds.pt

オーシャン Ocean
Vila Vita Parc Resort & Spa, Rua Anneliese Pohl, Alporchinhos, 8400-450 Porches, Portugal
https://www.vilavitaparc.com/en/dining/ocean

フォゴ Fogo
Rua do Grilo 54, 1950-145 Lisboa, Portugal
https://www.fogo.pt

野田
東京都渋谷区神宮前6-9-9
TEL 070-3882-3150
https://nodaharajuku.tumblr.com
https://www.instagram.com/nodaharajuku/

text, photo: 江藤詩文(shifumy)


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