テクノロジーの進化が止まらない!次世代レストランの形


■モスバーガー×OriHime

ハンバーガーショップの店頭で活躍するリモート操作の分身ロボット

ハンバーガーチェーンのモスバーガーは、今年7月下旬から10月末まで、東京の大崎店で接客ロボットを活用した「ゆっくりレジ」の実験導入を行なった。そこで採用されたのは、全自動ロボットではなく、人がリモートで操作する分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」だ。 OriHimeは、2012年に創業した日本のロボット開発スタートアップ「オリィ研究所」が手がけている。人工知能ではなく、人によるリモート操作の手法を取っているのは、身体に障害があったり、育児や介護など何らかの理由で家から出られなかったりする人が孤立せずに社会と繋がることを目的にしているからだ。ロボット本体は移動することができないが、内蔵されているカメラやマイク、スピーカーによって周囲の人とコミュニケーションを取ることができる。

大崎店の「ゆっくりレジ」で働くOriHime。

モスバーガーではこれまで、フルセルフレジの導入など、人手不足解消のための取り組みを行なってきた。今回OriHimeを採用した理由は、「人手不足解消に向けて、機械的になりすぎず、人ならではの温かみも感じられる接客の形を模索していたところ、OriHimeを開発したオリィ研究所さんに出会ったんです」と同社広報担当者は振り返る。

実際にOriHimeのパイロットとして、脊髄性筋萎縮症を患う関西在住の女性など、外出困難者4人が勤務。パイロットは自宅のモニターから客の様子をチェックする。OriHimeの首が上下左右に動くので、かなり広範囲を見ることができるという。「お腹の空き具合はいかがですか?」「関西は冷えますが、東京は暑いみたいなので、こんなドリンクはいかがですか?」などと会話をしつつ、操作ボタンでロボットの手をパタパタさせたり、片手を挙げたり、動きも付けながら注文を取る。

「慌てずゆっくり考えたい方やお子様などから好評で、写真撮影を求められることもあるようです。逆にパイロットとして勤務した方からは、『日ごろ家族とヘルパーさん以外の方と話す機会が少ないので、多くの方とコミュニケーションが取れてうれしい』という声が届いています」と同社広報担当者は話す。「ゆっくりレジ」では、 パイロットはオーダーを取るまでで、会計は有人レジで行なっていた。今後はオーダーから会計までを一本化できないか、方法を探っている段階だという。

■IMA cafe×ポアステディ

お湯の量や温度、手さばきなどの職人技を忠実に再現

「見逃さないでください、この動きを。たまらなくかわいいでしょう?無くてはならない僕の相棒なんですよ」 天王洲アイル駅近くにあるアマナ本社内のIMA cafeで、専属のコーヒークリエイターとしてカフェを監修する中川亮太氏は、彼の相棒を目の前にして、目尻を下げながらこう話した。この相棒の正体とは、「ポアステディ」という名のコーヒードリップマシンだ。 シンプルな造形が美しいこのマシンは、ニューヨークのブルックリンで生まれた。開発したのは、コーヒーをこの上なく愛する、元NASAのエンジニアとロボット技術者の二人組。彼らがある人気コーヒー店を訪れた際、バリスタが3杯ずつ同時にコーヒーを淹れていたが、客の行列は長くなる一方。これをどうにか解決できないかと、お湯の量や温度、回し方、抽出回数などバリスタによって異なるドリップ技術を覚えて、忠実に再現できるマシンを作り出した。

IMA cafeの誕生は2017年10月。「ポアステディ」はオープン時から導入され、中川氏を支え続けている。「マシンの導入を決めたのはオープンの7ケ月前。カウンターの寸法や壁の色などはマシンに合わせてデザインしました。当時は日本での代理店がまだ決まっておらず、米国のメーカーと直接やり取りをしていましたね。これは日本で導入された第1号です」と中川氏。現在、日本では全国で25台が稼働している。 カフェにポアステディを導入した一番の理由は、ドリップ技術の高い再現性にあるという。「コーヒーを淹れながら、お客様とコミュニケーションを取るのは難しいんですね。マシンが自分のドリップを完全にコピーして再現してくれれば、同時に僕はお客様へコーヒーの情報を伝えることができます。コーヒーを飲む前に、味や香りの特徴や産地などをインプットしておくと、 おいしさや記憶への残り方が変わってくるんです」。

実際に使い方を見せてもらった。まずは中川氏自身がコーヒー豆を挽く。マシンにペーパーとドリッパ ー 、サーバーをセットして、一度ボタンを押すと、ノズルからペーパーリンス(紙の匂いを取る)のためのお湯が出る。サーバーを綺麗にして、ペーパーに豆の粉を入れて、もう一度ボタンを押すと、今度はドリップへ。ここで中川氏が覚え込ませたお湯の回し方や量、温度、抽出回数などドリップのレシピが再現される。

「ポアステディ」の抽出スポットは5つあるが、お湯を注ぐドリップ口は1つしかなく、瞬間的に横移動する。「この動きがかわいいんですよ」と中川氏。

人とテクノロジーの共存が新たな価値を生み出す

「自分が10杯淹れると全て同じコーヒーにはなりませんが、このマシンが淹れると完璧に同じ。僕がいない時も同じクオリティのコーヒーを再現し、お客様へおいしさを伝えることができます。 ただ、 レシピを作り出すのは人です。フルオートマチックではなくて、あくまで人のサポート、相棒なんですね。このカフェでは、人とテクノロジーが共存することで、新たな価値が生まれています」


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