日本文学研究者で食通として知られるロバートキャンベルさんが、心に残るとっておきのレストランを紹介する本連載。
3回目は、パリで13年間愛されたフランス料理店が場所を変え、東京・東銀座の歌舞伎座裏に昨年秋オープンした、「LES FRÈRES AOKI(レフ アオキ)」をご紹介する。
シェフの青木誠さんと、マダムの青木三代子さんは、あの鮨の名店に生まれた姉弟。二人の強い絆が、客の心をやさしく包み込む。
歌舞伎座裏の路地にひっそりとあるレフ アオキ。英国アンティークの可愛らしい扉が目印だ。客席はカウンター10席のみ。シェフとマダムの絶妙なコンビネーションで、店内には心地よく温かな時間が流れる。パリ時代に手に入れた魚のオブジェ、ジアンの皿、絵画など、インテリアや器にも注目だ。
友だちを誘って夕刻から街をぶらぶら歩けるようになった。少人数でご飯を食べ、会話する。二年近くとは長い時間であり、その間、変わってしまった店もあるが、今まで気づかずにすっと通り過ぎていた場所や楽しみ方がふと視覚に入ってくることもある。それを、怪我の功名とでも言おうか。
東銀座であれば歌舞伎座の真裏に数ブロックを占める木挽町。わたくしにとって今、もっとも気になるエリアになっている。木挽町を天体にたとえれば銀座というきらめく星座の片隅から光線を投げ散らすパルサーのような存在である。いつの間にか強い磁力を持つ小さなお店が軒を連ねている。
路地裏に昭和初期から芝居好きのお客にモチッとした柔らかいどら焼きを毎朝作って販売している小ぶりな和菓子屋もあれば、愛知県から出店したフルーツ大福の専門店や、青森県の日本酒と赤魚の粕漬けが優美に抱擁し合う和食の隠れ家もあり、半径一〇メートル以内に抜群に美味いイタリアンが三軒も出店するなど、どれもオーナーシェフが気分よくきびきびと回せる規模で、小さなきら星の様である。