「白糠鹿肉 ピーナッツのブレゼ ポアブルソース」は、ロゼにローストした鹿肉に、鹿の血やコニャックを用いたソースを添えた一皿。大塚さんは「シェフの料理はクールな印象。ソースも濃厚というよりキレがよい。かつ、凝縮感と複雑さがある。それらと共通した個性を持ちながらもまろやかな、ローヌ地方南部シャトーヌフ・デュ・パプの一本を選びました。何かが突出しているわけではない。料理とワインが高い次元でまとまるイメージです」。
鹿のロインをロゼにロースト。付合せはピーナッツの蒸し煮、カシス、黒トリュフのピュレ、鹿肉のソーセージ、ほうれんそうのソテー。煮詰めた鹿のだしをベースに、鹿の血、コニャックなどを用い、こしょうでキレよく仕上げるソースを流す。ワインは、シャトーヌフ・デュ・パプ地方で使用できる13種のぶどうすべてをブレンドして造られる、凝縮感、複雑さ、調和を合わせ持つ一本。
一方、フォアグラの料理でのペアリングは挑戦的。料理は、フォアグラを塊ごとレモンバーベナとともにリースリングのワインで煮たもの。もともとフォアグラとリースリングのペアは定番で、この料理ではいっそうその組合せが常道と思われる。しかし大塚さんが合わせたのは南仏の、若干の酸を含んだ甘口白ワイン。グルナッシュ・グリのしっかりとした存在感やマカブーで生まれる風味の変化、マスカットのような香りが、フォアグラ、レモンバーベナとよい相性を見せる。「フォアグラは一見こってりとした素材に思えるが、シェフはそうでなく仕上げています。なのでワインは柔らかい印象のものが向くと判断しました」。
フォグラを塊でポシェする大胆さと、風味の繊細な構築を兼ね備えた一品。フォアグラはもどしたドライアプリコット、レモンバーベナとともに、リースリングのワインでポシェ。この塊をお客に見せてからカットし、かぶ、マッシュルーム、山形県産の生のアーモンドをのせ、レモンバーベナオイルをぬった皿に盛り付ける。ワインはグルナッシュやマカブーで造る、しっかりかつ柔らかい印象も
ある南仏の一本とした。
ちなみにカルバートさんは、「実は私はずっと、料理とグラスワインのペアリングは好きではありませんでした。今の職に就くまで導入したことはありません」と話す。「でも、この店に来て大塚さんと出会い、彼があまりに美しいペアリングを作るので考えが変わったのです」。
カルバートさんが特に感銘を受けたのは鶏をヴァン・ジョーヌ(黄ワイン。ジュラ地方名産)で煮た料理でのこと。「普通に考えればジュラのシャルドネあたりを合わせると思いましたが、彼は赤ワインを合わせた。予想を裏切るものでしたが、非常にうまく働きました」。
カルバートさんの料理を最大に尊重しつつ、時にはチャレンジもする大塚さん。そんな生き生きとしたペアリングが、「セザン」での食事をいっそう豊かなものとする。
イギリス出身。16歳でロンドンにて料理の道に入り約5年間経験を積む。その後NYのミシュラン3つ星「パ・セ」、パリのパラスホテル「ル・ブリストル」のメインダイニングで3つ星の「エピキュール」で、それぞれ副料理長に。さらに香港のネオビストロ「ベロン」の料理長として店をミシュラン1つ星、「アジアのベストレストラン50」4位に導く。2020年、「フォーシーズンズホテル丸の内 東京」の総料理長に就任。メイ
ンダイニングリニューアルの指揮をとり、2021年夏「セザン」をオープン。
横浜市出身。ボジョレーにある辻調理師学校のフランス校在籍中に、料理の傍らワインを学ぶ。帰国して料理人として働いた後、サービスに転身。横浜や東京の数店で経験を積み、2005年より「ベージュ アラン・デュカス 東京」にて15年勤務。メートルドテルを経て12年にはシェフソムリエに就いた。昨年には「フォーシーズンズホテル丸の内 東京」のソムリエに就任。「セザン」ではシェフのダニエル・カルバート氏と密接な協力体制を築く。
東京都千代田区丸の内1-11-1
パシフィックセンチュリープレイス丸の内
フォーシーズンズホテル丸の内 東京7F
TEL 03-5222-5810(問合せ)
12:00~14:00(13:45LO)
18:00~22:30(21:00LO)
月火休
text: Izumi Shibata photo: sono(bean)
本記事は雑誌料理王国319号(2021年12月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は319号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。