腹の底からおいしいと言えますか?「旅する料理人」三上奈緒氏が追求する食(中編) 手探りだらけの道のり


旅する料理人、三上奈緒さん。全国各地で行う調理イベントなどを通し、現代社会では見えにくくなっている「おいしさの根源」を人々に提供し続けている。そんな三上さんに、ご自身の取り組みや考えをインタビューし、全3回で紹介。第2回目の今回は、彼女の今に至る歩みについて話していただいた。

三上奈緒 みかみ なお
東京農業大学卒。「顔の見える食卓作り」をテーマに、食を通じて全国各地の風土や生産者の魅力を繋ぐ。食卓から未来を想像する学び場 Around the fireや、縄文から原点を学ぶ、縄文倶楽部を主宰。Edible schoolyard japanのchef teacherをはじめ、子どもたちの食教育も行う。 海に山に川に、料理のフィールドはどこへでも。石を組み、木でアーチを組み、焚き火で料理する、プリミティブな野外キッチンを作り上げる。

栄養士、ファーマーズマーケット、料理修業。その中で出会った「単純だけれども最高な食」が原体験

――今の活動をはじめるまでの、三上さんの軌跡を教えてください。

出身は東京です。小さい頃から食品の原材料のラベルを読むのが好きだったり、「この食べものはどこから来るのだろう」と疑問を持つような子でした。そんな食への興味が高じて東京農大で栄養学を学び、卒業後は小学校に栄養士として就職します。

しかし、学校では、給食こそが一番の食育の教材です、と習ったものの、実際に使われていた食材は地産地消でもオーガニックでもなんでもなかった。ショックでしたね。

栄養士として働きながら、友人が運営を担っていた青山のファーマーズマーケットを手伝ってもいました。その延長線上で生産者の方々の畑を訪ねるように。彼らが作る素材のおいしさの理由を知ったり、思いを聞くのが楽しかったですね。

さらに深夜、友人のクラブでカレーを作るようになり(笑)、そこでファーマーズマーケットで交流するようになった方々の野菜を使っていました。でも、ただ使うのではなく、ポップに生産者さんの名前を書いて伝えたり、逆に、カレーを食べた人たちの反応や感想を農家さんに話したり。農家の方に「喜んで食べてくれたよ」と報告するのが嬉しかったのを覚えています。

そうするうちに、ふと「自分には料理の技術がない。学びたい」と気づき、勉強するためにフランスに飛びました。

――素晴らしい行動力ですね(笑)。

そうかもしれません(笑)。フランスでは地方のレストラン2店、アヌシーとプロヴァンスで半年ずつ働きました。その時は料理を覚えることに必死でしたが、田舎の店なので、近辺の農家さんが直接野菜を届けに来てくれたり、レストランの庭のハーブを摘んで使ったりするのが新鮮で、楽しかったです。

しかし何よりも学んだことは、休みの過ごし方かもしれません。

友人と南仏の自然公園へ行った時のこと。まず湖にロゼワインとメロンを冷やしてから、湖にダイブ。泳いで遊んで、お腹が空いたら、買ってきたバゲットにナイフで切れ目を入れて、ジャンボンとフロマージュをはさんで半分こ。昼間から冷えたロゼで乾杯して、食後にそのままシエスタ。

勉強という名目で高級ガストロノミーもたくさん食べましたが、こんな単純な体験が、それがもう最高だったのです。これは今の活動にも通じる食の原体験ですね。

――帰国後は日本で引き続きフランス料理を?

はい。都内のレストランで働きましたが、フランスとの労働環境の違いなどのためか、体調を崩して一旦現場を離れました。

その後は食育の仕事やファーマーズマーケットの手伝い、知人の店へのヘルプなどで料理の周辺にはいたのですが、迷走していましたね(笑)。

そんな時、イベントを通じてジェロームさん(ジェローム・ワーグ氏。元シェ・パニースのヘッドシェフ、現the Blind Donkey料理長)に出会ったんです。悩みを相談したら、「シェ・パニースに研修に行ったら? 紹介するよ」と。すぐに話をつけてもらい、カリフォルニアに飛びました。実はシェ・パニースがどのような店か、その時は知らなかったのですが直感でした。

結果、本当に素晴らしい経験ができました。「私がやりたいのはこれだ!」と再確認ができました。

――どのような体験でしたか?

シェ・パニースはオープンした約50年前から、ファーマーズマーケットや地元の生産者を大切にしていて、そうした周りとの交流がベースにある温かい空気感が印象的でした。料理は、素材を最大限に生かすよう、ごくごくシンプル。たとえばサラダ。「リーフを盛っただけだけれどいいの?」と初めて見た時に思いましたが、これがすごくおいしかった。そして肉は薪料理。

さらに、スタッフの間にストレスが無く、シェフが言ったことは絶対ということもなく、民主的に料理ができあがり、経歴や学歴ではなくちゃんと人を見てくれる。まかないを食べる時間もちゃんとあって、ワインだって飲んじゃう。生き生きと楽しく働いているんです。なんて平和なキッチンなのだろうかと。そして楽しい空気から生み出される料理は、肩肘張らずに本当においしい。

ここで過ごすうちに、料理を作る楽しさを思い出すという、自分にとって非常に重要な転機も訪れました。3ヶ月の研修期間は、本当に濃密な時間でした。

――帰国後はすぐに、今の活動をはじめたのですか?

実はシェ・パニースで私が研修している時、研修の一環で食事に来ていた日本のとある会社の方が、「帰国したら私たちと一緒に料理のイベントをやりましょう。連絡ください」と言ってくださったんです。それが、前回お話した愛媛の会社です。

こうした紆余曲折があり、挫折や迷走もあったものの(笑)、気づいたら今に至っています。

後編では、三上さんの活動の背景にある思想をお聞きします。
※前編【イベントは毎回発見】〜三上さんの活動内容と目的 はこちら

NAO MIKAMI 旅する料理人
https://www.naomikami.com

SPBS THE SCHOOL「おいしいってなんだ?」
三上奈緒さんナビゲートによる全6回(7月〜11月)の長期講座「おいしいってなんだ?」が開催されます。農園でのフィールドワークや哲学対話を通して、食の在り方を見つめ直す学び場です。
詳細は以下、公式サイトをご参照ください。
https://www.shibuyabooks.co.jp/event/9740/
※定員になり次第、受付終了となります

全6回(初回7月12日〜第6回11月25日)
第1回「おいしいってなんだ?」 三上奈緒さん[旅する料理人]
第2回「食と日本の現在地」 保田茂さん[農学者]
第3回「食と世界の現在地」 岡根谷実里さん[世界の台所探検家]
第4回「食と平等」 仲野晶子さん、仲野翔さん[SHO farm/農家]
第5回「おいしいの中身」 鴨志田純さん[鴨志田農園/コンポストアドバイザー/農家]
第6回「ごちそうさまのその先」 四井真治さん[パーマカルチャーデザイナー]

text:柴田泉 photo:三上奈緒氏提供(料理)、柴田泉(人物)

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