コンセプトは〝自然〞。「タクボ」の代名詞ともいえる牛の薪焼きが、そのことを体現している。目にも舌にもガツンとくる、薪焼きのダイナミックさに衝撃を受けた田窪大祐シェフは、2016年に自身の店をオープンするときに薪焼きに注力したいと決めていた。自然の力強さだけでなく繊細さまでも、イタリア料理で味わえる一軒だ。
圧倒的なシグネチャーディッシュを持つ店舗は強い。「タクボ」においてそれは〝薪焼き〞であることに異論はないだろう。代官山の閑静な住宅地にあるこの店は、扉を開けた瞬間に薪が燃える匂いが鼻に飛び込み、否が応でも食欲を刺激する。
店内はカウンター席が中心で、その向こうに薪窯。この薪窯で焼く肉が「タクボ」の看板料理で、訪ねる人はこのひと皿を心待ちにしてやってくる。薪を使うメリットは、表面がカリカリになり過ぎず、適度なクリスピーさで焼き上がること。肉本来のうま味がしっかりと閉じ込められ、噛めば噛むほど、うま味がじわっと広がる。
「ただ肉を焼くだけです」と田窪大祐シェフは笑顔で言うが、無論、そうではない。開店の1時間前から火入れをして、お客がやって来たときに、薪にかけられる状態にしておく。肉を焼く際、焼き具合と音を確認しながら、手を加え過ぎず、ベストな状態で焼き上げる。今回使った肉は「十勝若牛」。月齢が若く、肉汁がたっぷりで脂が軽めの肉は、薪焼きに合わせると最高の味わいとなる。
薪焼きが象徴するように、「タクボ」のテーマは〝自然〞。他の料理も「季節を感じられる素材を、その持ち味を最大限に引き出した料理にして提供しています」と語る。
コロナの影響で店頭受け取りのテイクアウトも行なったが、店内飲食を望むお客様が大半だという。薪窯のライブ感は店で食べる醍醐味。遵守すべきは遵守し、できる限り、これまで通りの営業スタイルを続けている。これは、単に食べる場としてでなく、食を楽しむ場として「タクボ」が認識されているからに他ならない。
12~20ケ月のホルスタインの若い雄牛を使用。写真右下は400gで、どんと迫ってくるダイナミックさも目にご馳走。若い牛なのでいかにも牛肉を感じさせる香りはほとんどなく、脂も軽く、しっとりとやわらかい。後口もすっきり。薪焼き自体はシンプルに塩のみで味つけ。
アサリの出汁で味を含ませ、氷でしめたカッペリーニに白エビをおき、レモンを搾る。このパスタの山の頂上におくのは、イタリア産キャビア。20gとたっぷりのせて、キャビアを食べた、と満足できる。レモンの酸味や白エビの磯の風味が心地よく、つるつると食べられる、夏にふさわしい一品。
タクボ
東京都渋谷区恵比寿西2-13-16 1F
TEL 03-6455-3822
17:00~20:30LO
日休
本記事は雑誌料理王国317号(2021年8月号)の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は317号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。