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【名人の火入れ】タクボ流!薪の火入れ


強火で近火なのに、優しい乾かずやわらかな薪焼きの肉

十勝田くぼ牛の薪焼き
「十勝田くぼ牛」のサーロインを薪でクリスピーに焼き上げた。付け合わせは季節によって異なり、写真は十勝産「インカの目覚め」熟成ローストと、生グリーンペッパーの塩漬け。下味用とは異なる塩が調味用に添えられる。

「イタリアンの弱点はパスタや前菜に比べてメインが弱いこと。薪焼きを取り入れたことで、そこは解消できたように思います」と田窪さん。
3度目のリニューアルで辿り着いたのは、カウンター越しに薪火で豪快に肉を焼く薪焼きというスタイルだ。
「それまでは炭焼きがベストだと思っていました。でも『ヴァッカロッサ』の渡邊さんが焼く薪焼きの肉を食べて、違いに衝撃を受けました。
肉汁の熱い肉に久々に出合った気がして」そこから約1年間の構想を経て、リニューアルを決意。店の定休日を利用して渡邊さんの元で研修を重ね、薪焼きの技術を学んだ。
「タクボ」では、コースの流れはそのままに、メインが薪焼きという構成で2種類のコースを用意。以前の店からの常連客に加え、肉好きの新規客、狙っていた男性のみでの来店も増えているという。主軸となる肉は自身の名が入った「十勝田くぼ牛」。
黒毛和牛とホルスタインの交雑種で、赤身とサシのバランスがよく、独自の基準をクリアしたものだけを仕入れる。また、熟成期間を置かずフレッシュな状態の肉が、薪焼きに適していると田窪さんは言う。「焼く温度よりも火の当たり方を見ています。
均一ではない火に揉まれながら、水分を逃さずやわらかくジューシーに
焼き上げるのが、薪の面白さであり、難しさですね」

十勝田くぼ牛サーロイン
赤身とサシのバランスなど、田窪さんが薪焼きにもっとも適すると考える独自の基準を満たしたものだけが、この名前で呼ばれる。月齢36カ月前後と飼育期間が長いため、とくに熟成期間は設けず、納品後約2週間程度のフレッシュな状態で提供される。
臨場感が伝わる薪焼き用暖炉
肉を焼く姿がカウンター席から見える場所に、前面開放型の調理用暖炉を設置。幅約1m、奥行き約50cmの暖炉の内部は左右に分かれ、左側に薪を焚く火床、右側が熾火を運ぶ焼き台となっている。焼き台の内部は、増田練瓦の蓄熱性の高いレンガと粘土を用いた2重構造。熾火によって温められた放射熱によって肉が焼かれる。薪は、
煙にクセがなく燃えやすいナラの木を使用。

名人の火入れ、その極意

薪から火を起こして熾火を作り、焼き台内部を温める。最初に火床で焚付けを10本程度と、細めと太めの薪を10本程度燃やし、約1時間かけて熾火に。
トングで動かしながら薪に火を入れ、でき上がった熾火はスコップで焼き台へ。土台内部を温めて蓄熱させたあとは、熾火を随時継
ぎ足していく。
焼く直前に刷毛を使って肉の表面に牛脂をのせる。こうすることで焼き始めに肉が網について形が崩れるのを防ぎ、乾燥も防止できる。
網に肉をのせて焼き始める。この時、見た目よりも実際に手をかざすことで火加減を判断「温度よりも火力を意識しています」と田窪さん。
下からの熱に対し、数十秒間肉の上面を休ませながら焼いては返す。こうすることで肉汁が暴れるのを抑え、焼きたてが提供できる。
2度返して網の目状に焼き色が付いた状態。薄い焼き目が重なっていくようなイメージで、表面全体に焼き色がつくまでこの作業を繰り返す。
薪焼きにおける熱源は、熾火によって熱を蓄
えた土台内部からの放射熱。そのため、注意
深く観察しながら火力を見極め、熾火を継ぎ
足していく。
「薪の火は面的で強弱のムラがある」
と田窪さん。それによって肉が揉まれ、
ジューシーでやわらかな焼き上がりに。
焼き面にもっとも注意を払う。
肉そのものの脂によって表面がクリスピーに焼け、内側にも均等に火が通っている状態が理想。目で見て、最後は指先の感覚で焼き加減を確認。
肉の水分を逃さないよう最後に塩をふる。塩はイギリスのマルドンシーソルトと、ポルトガルのローマンの塩をブレンドし、叩いて大きさを調整。
火から外したら間髪を入れず肉を切り分ける。表面はクリスピー状で焼き色はしっかり。内部は肉汁がにじみつつ、充分な温度も感じられる。
付け合わせには野菜のローストと、グリーンペッパーの塩漬け。後付けの塩は、ジブチ共和国アッサル湖の塩。粒が丸く舌の上でゆっくり溶け肉と馴染む。
Daisuke Takubo

青山「アル・ソリト・ポスト」、広尾「アロマフレスカ」で修業の後、2007年に 「リストランティーノ バルカ」を広尾にオープン。2010年、恵比寿に移転し「アーリア ディ タクボ」としてリニューアルオープンし、イタリアンリストランテとして人気を博す。2016年4月、3度目のリニューアルを経て、メイン料理を薪焼きで提供する「タクボ」を代官山にオープン。

タクボ
TACUBO
東京都渋谷区恵比寿西2-13-16
ラングス代官山1F
☎03-6455-3822
● 12:00~15:30(13:00 LO、水土祝)
18:00~25:00(23:00 LO)
●日休(月曜祝日の場合は日曜営業、月曜休)
●コース 9500円~
●20席
tacubo.com

田中英代=取材、文 林 輝彦=撮影

本記事は雑誌料理王国268号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は268号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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