2011年10月、渋谷の喧噪から離れた松濤の路地裏に、ビストロ「キュイジーヌ エ ヴァン アルル」は誕生した。フランスの田舎町にありそうな、こぢんまりとした、温かみのある雰囲気の店。オーナーシェフ、ヤマモトタロヲさんの設計によるものだ。ヤマモトさんは、美大の建築科出身。38歳で独立するまでの間、料理修業だけでなく、物件探しから人材募集、教育、メニュー開発まで、100軒近い店舗開発・運営に携わった経験を持つ。
衣食住をブランドにした地域に根ざした村をつくりたい「アルル」の物件は、1年以上借り手のつかない旧い建物だった。ヤマモトさんには、逆にその旧さが魅力的に映ったという。店舗が決まり、開業までに費やした期間は約3カ月。タイルを剥がした痕の残る壁を見て、「カフェじゃなく、ビストロでいこう」と決めた。
「物件ありき、なんです」店舗開発を10年以上経験したヤマモトさんが出した答えだった。建物10坪。そこに庭1坪を加えた計11坪に20席を設けた。家賃は22・5万円+税。オープンスタッフはヤマモトさんの他、シェフとサービスの計3名。扱うのは、南部鉄器を使った、素材を活かしたシンプルな料理と、フランスの自然派ワインにした。内装だけでなく、料理も接客も、「ほっこりとした、やさしさを感じられる店」を目指した。
客単価は6500円。充足率が8割以上でないと経営が成り立たない計算だったが、半年後には、20席に対し60人分の予約が来るようになっていた。こぢんまりとした温かみのある雰囲気と料理が、女性客を中心にウケたのだ。そこで、共通メニューを設けた2号店の計画を練り始めた。断っていた40名のお客様に姉妹店を利用してもらおうという狙いの他に、もうひとつ理由があった。実は、「アルル」の物件は立て替えの予定があり、9年の約束で借りたもの。店を閉じた時のことも考え、2号店を出しておきたかったという。それにしても、なぜわざわざ定期借家の物件を選んだのか?
「借金は7年で返せる予定なので、2年間は旨みがあると踏みました。期限のある方が次を考えて勉強し、進化できると思いましたから」
ヤマモトさんには、飲食だけでなく、雑貨店や生花店など、地域に根ざした村を作りたいという思いが当初からあった。「アルル」が軌道にのったことを機に、事業展開を進めることを決め、法人化した。現在、徒歩20分圏内に4店舗を展開中。勢いは当分止まりそうにない。
キュイジーヌ エ ヴァン アルル
cuisine et vin aruru
東京都渋谷区松涛1-25-6
パークサイド松涛 101
☎03-6407-0149
● 14:00~24:00
ランチ&カフェ14:00~17:00、
ディナー18:00~24:00
●月休
●ア ラカルトのみ。スフレ700円ほか
● 20席 https://www.facebook.com/
aruru2011
名須川ミサコ=取材、文 中西一朗=撮影
本記事は雑誌料理王国261号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は262号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。