牛には4つの胃袋がある。そのうちの第二胃袋が「トリッパ」で、日本では「ハチノス」と呼ばれている部位である。イタリアでは、煮込み料理やサラダなどに使われるおなじみの食材。フィレンツェのトリッパ屋台はつとに有名で、地元の人々はもちろん、観光客にも大人気。いうなれば、イタリアの級グルメ的なポジションだろうか。
「トリッペリアトリッパ」は、そんなトリッパを専門に扱う、超個性派イタリア料理店だ。現地では時代を越えて老若男女に愛されている味であるものの、日本ではメジャーとはいい難いトリッパに特化したのは、「ひと言で言うと、チャレンジ精神」と、オーナーシェフの古瀧広宣さんは語る。「世の中は全体的にヘルシー志向で、イタリアンでも野菜や魚の料理に人気が集まる傾向です。あえてその流れに逆らう。おもしろそうなアプローチだと考えました」
素材の確保が難しいこと、好き嫌いが分かれる食材であることなどを理由に同業の仲間たちからは止められた。しかし「皆が手を出さないからこそ、その分可能性は大きい。トライしてみたい」と一念発起した。
一番のハードルは質の高い素材の確保だったが、直接取引をしてもらえるホルモン専門の精肉業者を開拓し、最短ルートで仕入れを実現させてクリアした。黒毛和牛のトリッパのみで、冷凍物は一切使わない。ゆえに届いた直後は「生で食べられるぐらい新鮮な状態」だそうだ。
とはいえ、ひとクセもふたクセもある素材ゆえ、下処理には相当な手間ひまがかかる。5回以上ゆでこぼし、専用の調味液に数時間煮込んでいくなどして、毎日、臭み消しの作業に半日以上を費やす。また、使う料理ごとに、やわらかさを変えて何種類かを準備する。そのうえでオリジナリティを加えて「え? これがモツなの?」という料理に昇華させるのが腕の見せどころだ。「絶対においしいと言っていただける自信があります。臭みもないので、モツが苦手な方でも大丈夫です」
メニューは毎月10品程度入れ替えており、新作も続々登場させるため、それを目当てに訪れるリピーターも多い。「本場イタリアのトリッパ料理はガツンとストレートな味わいが特徴ですが、そのまま展開するのは厳しいと思いました。やはり、日本人の繊細な味覚に合わせることは必須」と小瀧さん。ゲストの飲んでいるワインに合わせて味を調節したり、魚介のブロードと合わせたり、ハーブの使い方を変えたり……TPOに応じ、きめ細やかな工夫を凝らす。
「イタリアでは、リストランテであってもトラットリアであっても、その土地の風土、伝統、味覚を生かすという考えが根づいています。そういうところを見習いたいという気持ちがつねにあります」
つまり、日本と日本人に合うものを作る方が、実はイタリア料理の精神に即しているというロジックだ。日本人による日本人のための本格トリッパ料理。めざしているのはそこである。
トリッペリア トリッパ
TRIPPERIA TRIPPA
東京都中野区本町1-32-2 ハーモニータワーB1F
03-3320-4227
● 12:00~14:00(月~金) 18:00~23:00(土・祝は18:30~23:00)
● 日休
● 昼10席 夜8席
ameblo.jp/tripperia
乾 麻里子=取材、文 岩崎仁子=撮影
本記事は雑誌料理王国第262号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第262号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。