天然ウナギは皮が硬くて食べにくいといわれている。だが、それは大きな誤解であり、認識不足だと嘆く御仁がいる。浜名湖産天然ウナギの蒲焼きを名物にしている、「魚河岸料理太助」料理長の山本宏さんだ。
「天然ウナギの皮が硬いのは事実ですが、それを克服するのがウナギ職人の技なのです。養殖物は5分も蒸せば充分ですが、天然物はうちでは18分ほど蒸します。とくに天然ウナギには個体差があり、一尾一尾手で確認しながらやわらかくなるまで蒸す必要があります」
浜名湖では、5月上旬から年末まで天然ウナギ漁が行われている。春先、水温が上昇するにつれ、天然ウナギは餌を活発に取るようになっていく。この頃の天然ウナギは身がやわらかくあっさりとしているという。
初冬。水温の低下に伴い、餌を食べる量は徐々に減っていく。この時期、脂ののりがよくなるからこそ、皮が締まり、硬くなっていく。しかし、だから旨い。天然ウナギに関する限り、冬が旬だと山本さんは力説する。
では、そもそもなぜ浜名湖産の天然ウナギは旨いのか。浜名漁業協同組合雄踏支所の藤松哲男支所長が答えてくれた。
「アサリや甲殻類を食べたウナギは旨いといわれています。利根川や四万十川など、天然ウナギの産地として知られる場所にはアサリや甲殻類が生息しているように、ここ浜名湖はアサリの産地としても有名です」
資源保護のため、浜名湖では1月15日から3月20日頃まで禁漁となっている。「太助」に浜名湖産天然ウナギを卸している「海老仙」が天然ウナギを扱うのは6月から12月まで。太助では天然ウナギが旬の10月から12月までの間、身がとろけるような料理を提供している。
浜名湖では2種類の天然ウナギ漁が行われている。複数の筒を湖内に仕掛ける「つぼ漁」と、長さ約180mの道網の両端に袋網を設置し、天然ウナギなどの魚を誘き寄せる「角立漁」だ。12月上旬、あるポイントに仕掛けられた角立漁には、2尾の天然ウナギが大量のイワシと一緒に水揚げされた。国産天然ウナギの漁獲量は年々減少しており、平成20年は272tと5年前の半分以下に激減。浜名湖産はもともと漁獲量が少なく、平成20年は14.7tと5年前の17.8tから微減している。だからこそ希少価値が高いといえる。
ウナギ目ウナギ科に属する魚の総称。日本のウナギは河川で5~10数年過ごした後、海に下り、グアム島やマリアナ諸島近海で4月から7月頃、産卵するといわれている。孵化後、数日でレプトセファルス(葉形仔魚)になり、数カ月で透明なシラスウナギに成長する。その後、海流に乗って日本沿岸にたどり着く。その一部が浜名湖に入り、海や河川を自由に行き来しているといわれている。いっぽう、日本沿岸や河川を遡上する途中で捕獲されたシラスウナギが各地で養殖されてきた。明治24年に本格的なウナギの養殖が始まった浜名湖では、浜名湖畔や天竜川で採集したシラスウナギを浜名湖周辺にある養鰻池で養殖している。自身も養殖業を営む、浜名湖養魚漁業協同組合の野寄喜弘代表理事によれば、現在浜松市内には27軒のウナギ養殖場があり、そのウナギ生産量は近年微増しているという。同じ浜名湖産ウナギでも天然物と養殖物では、外見がまったく異なる。天然物には立派な胸ビレがついており、色も黒々としている。寒くなってきたせいか、皮が硬いのが天然ウナギの特徴。
武井武史=文、ヤスクニ=写真
本記事は雑誌料理王国2010年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2010年2月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。