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水と料理の関係(後編)「水は調味料と考えて性質をうまく使い分ける」


日本の料理は水の料理その核は日本の水にある

水は調味料と考えて性質をうまく使い分ける

水と料理の関係(前編)はこちら
「軟水か硬水か、水はそんなに単純ではない」

 日本では、一般的に硬度100mg/lを境として軟水と硬水に分類されることが多い。また、厚生労働省による「水道水質基準」において、上図のように、おいしい水とされる硬度は10〜100mg/lと示されている。

参考:厚生労働省「水質基準項目と基準値(51項目)」
東京都水道局ホームページ

 しかし、数値だけでなく、先述の官能テストと水質調査によって、日本の水には独自性があることを結城さんは発見した。そして、水がおいしいことと、料理に使っておいしくなるかは、まったく別の話だと言う。「たとえば、蕎麦は海外の硬水でゆでたほうが、味が抜けないのでおいしいのではないかと思います。他国の蕎麦粉料理、ガレットやブリニは硬水で作られているので、その可能性はある。ただ、つゆの返しは日本の軟水で作らないと、全然おいしくありません」

 私たちも、取材時に炭酸水と天然水で、ご飯の味の官能テスト(写真)を行ったが、その味の差は歴然であった。水を変えるだけで、食材の味も無限に変わる。ゆえに、結城さんは水を調味料だと思って使うとよいと言う。

「海外の料理人とイベントをする時にも、日本の水を調味料として考えてくださいと言っています。日本の味わいやだしの味がほかにないのは、水が本質的に海外と違うからだとお話ししているんです」

 しかし、日本料理は水の料理と言われるほどであるのに、日本人は水の豊富さゆえに、その性質を把握していない、と結城さんは言う。

「日本の文化を育てているのは日本の水。日本刀や和紙は、日本の水の性質があるからこそ生まれた文化です。日本料理はとくに日本の感性を表現するものですから、水をうまく使い分けられるといい。肉やコーヒーなど西洋のものは硬水が合い、中国料理は中国の水がピッタリ合うことが、官能テストでわかる。世界中の料理が日本へ入ってくるなかで、海外の水も使いつつ、日本の水も使って、よりよく深みのある料理ができたらおもしろいと思います」

 調味料として水を考えると、たとえば塩を使い分けるのと同じように、味の可能性はもっと広がる。

「今や海外の料理をまねする時代ではなく、海外へ日本料理を発信していく時。日本料理を海外へ持っていくなら、水も携えていくべきです。それは単に日本の水だからではなく、日本の水に日本独自の文化が凝結しているところがあるから。水文化も携えて、日本の味を出していくべきだと思います。日本料理は日本の水という特殊なものに裏付けられていることを、日本の料理人がきちんと知って、海外の料理人にも話せるようになるといいですね」

結城摂子さん
東京都生まれ。フードコーディネーターの草分け的存在として、1993年「料理の鉄人」をはじめ、テレビ等メディアでのフード・テーブルコーディネートを数多く務める。また、食のスペシャリストとして、調理HACCP認証資格を取得しているほか、メニュー開発や料理イベント、HACCP講座など、料理全般に関するコンサルティングなども精力的に行っている。


澤 由香(本誌編集室 ) =取材、文 小寺 恵=撮影

本記事は雑誌料理王国2019年8月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は 2019年8月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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