前回の「土性」の味わいに続いて、ワインの味わいを判断するための基軸となり得るのが「岩石」のもたらす味わいだ。岩石は大きく分けると石灰岩と非石灰岩に分かれる。今回はこの味わいの違いを考えてみよう。
ワインの味わいを「テロワール」で考える時、土性に続いて考慮しなければならないのが、ブドウ畑の「岩石」だ。前回学んだように、ワインの味わいは土性に大きく影響を受けるが、ブドウ畑には、岩石を含まない土壌、いわゆる「沖積土壌」は非常に少ない。質の高いワインを生むブドウ畑の大半は、表土のすぐ下に石灰岩や花崗岩、シストなどの岩石が存在する。また、表土の中にもそれらが風化した粒子を含んでおり、ワインの味わいにも影響していると考えられる。
ブドウ畑に多くみられる岩石としては、シスト、砂岩、石灰岩、花崗岩などがある。地質学上の分類はさておき、味わいで考える場合には、石灰岩とそうでない岩石の味わいの違いがもっともわかりやすい。違いは主として風味の中の酸に現れる。
石灰岩から生まれるワインは、きわめて引き締まった酸を持ち、「まるで舌をペンチで締め付けるような」攻撃的な酸を感じることが多い。これ以外の岩石の場合は、どちらかというと「ふわりと舌の上に乗るような」印象となる。ただし、これは酸味の強弱ではなく、酸の性格の違いである点に注意して欲しい。
次に土性と岩石の味わいを区別するようにテイスティングする。たとえば、粘土系土性と石灰岩、砂系土性と石灰岩のワインを比較する。なお、粘土系土性と石灰岩の酸の印象はよく似ているので、最初は区別がつきにくいかもしれない。どちらも硬質で攻撃的な性質を持つからだ。その場合は味わいの形状に注目する。どちらも、縦長で重心が低いが、石灰岩は四角くはなく、上下にさらなる伸びがあるのが特徴だ。
こうした性質の違いを把握した上で、実際にはどのように料理とのマリアージュを考えたらよいのだろうか。たとえば、フランス、ローヌのコンドリューのワインで考えてみる。
ひとつは粘土系土性と花崗岩の畑「ヴェルノン」。もうひとつは、砂系土性と花崗岩の畑「シェリ」。花崗岩のワインは酸がなめらか、かつ味わいがやわらかいので、ローヌ、リヨン近隣の郷土料理「クネル」とは順当な相性。花崗岩+粘土系土性のワインならば、クネルを固めに仕上げ、エクルヴィスの入ったソース・ナンチュアを添えた伝統的なスタイルがよいだろう。一方で、花崗岩+砂質系土性のワインと合わせるならば、クネルに卵白やホタテ貝などを加えてよりソフトな食感に仕立て、ソースはエビを使ったアメリケーヌで、より上品に軽く仕上げるといった思考法ができる。
(A) ワイン名 (B) 生産者名 (C) 産地 (D) 品種 / ヴィンテージ
(A) パトリモニオ グロット ディ ソール
(B) ドメーヌ アントワーヌ・アレナ
(C) フランス コルス パトリモニオ
(D) ニエルッチオ/2010
広がりは大きく同時に密度も高い。強い味わいだが、重心はやや上にあるため重たさを感じない。質感は表面から内部はやわらかめで、芯は大変に堅い。酸は引き締まって硬質。香りはスピード感があって開放的だ。コントラスが大きくダイナミックなのが魅力。余韻も長い。
(A) メヌトゥ・サロン・ブラン モローグ
(B) ラ・トゥール・サン・マルタン
(C) フランス ロワール メヌトゥ・サロン
(D) ソーヴィニヨン・ブラン/2010
広がりは大きめ。味わいの形は垂直的で重心が下にある。第一印象は軽快だが、後味にはむしろ重量感があり、余韻は長い。質感は表面から内側はややかたく、芯は大変に堅い。酸は非常に鋭く、引き締まってグイグイと舌の中に入ってくる。香りは華やかで直線的に伸び上がる。
(A) コトー・デュ・リヨネ ブラン トラディション
(B) ドメーヌ・デュ・クロ・サン・マルク
(C) フランス ブルゴーニュ コトー・デュ・リヨネ
(D) シャルドネ/2010
広がりは大きく大変に軽やか。味わいの形状は丸く、密度感は低め。重心は真ん中からやや上にあり、軽快な飲み心地。土性が砂質のワインと比べると、芯はやや堅めで、最後に適度なメリハリ感があり余韻がにじまない。酸は低く、舌の上にフワッと乗る。軽く広がる香り。
(A) コルス フィガリ ルージュ
(B) メーヌ・クロ・カナレリ
(C) フランス コルス フィガリ
(D) ニエルッチオ シラー/2010
広がりは軽やかに大きく、味わいの形状は丸く、重心は真ん中からやや上にある。質感は表面から内側にかけてはとてもやわらかく、羽毛的な毛羽立ちがあるが、芯はやや堅く、余韻まで集中力を保つ。酸はフレッシュだが低めでソフト。赤いベリーの開放的で可憐な香り。
(A) リースリング グラン・クリュ カステルベルク
(B) ドメーヌ デ・マロニエ(ギイ・ヴァック)
(C) フランス アルザス バ・ラン
(D) リースリング/2009
味わいの広がりはやや小さいが、その周囲に空気感があり、大きな気配を感じる。味わいの形状は丸く、重心は中央にある。表面は非常にきめが細かく軟らかい。内側は芯に至るまでミッシリとかたいが、鈍重さは皆無。酸には勢いがあるが締めつけない。複雑で内向的な香り。
(A) リースリング グラン・クリュ ヴィーベルスベルク
(B) ドメーヌ デ・マロニエ(ギイ・ヴァック)
(C) フランス アルザス バ・ラン
(D) リースリング/2009
広がりは軽やかに大きく、味わいの形状は丸く、重心は真ん中からやや上にある。質感は表面から内側にかけてはとてもやわらかく、羽毛的な毛羽立ちがあるが、芯はやや堅く、余韻まで集中力を保つ。酸はフレッシュだが低めでソフト。赤いベリーの開放的で可憐な香り。
伊藤由佳子=構成、文