コロナ禍による飲食店の変化について考える記事シリーズ、第5回目となる今回は、アフターコロナで飲食店にできる方策について考えて行きたいと思います。
家賃、人件費などの固定費が重いホテルや外食産業などの、いわゆるこれまでの「ハコモノ」産業は、売上の上限が座席数と客単価によって決められてきました。
売上=客単価×席数×回転率
外食産業において、業種業態によってこれらの方程式の中で重要とされる数字が変わってきました。
例えば高級業態において、単価に見合ったサービスのクオリティを担保するためには席数を増やすことが難しく、また、滞在時間も長くなりがちなために回転率をとることも難しい。そのため、ドリンク/酒類の販売によって単価を上げることが求められてきました。優れたサービスパーソンやソムリエの価値はこのアップセルの部分で発揮されてきました。
ただ、近年では高級外食ブームによって予約困難なお店の一部は、ディナーの一斉開始/および二部制を採用するところも増えてきていました。また、食材原価を高く保つために、食材ロスのでないコース1本のおまかせのみ、という業態が増えていました。
低単価の業態では、席数と回転率をあげるための数々の工夫がなされてきていました。例えば「俺の」系列のお店では、食材原価を上げてクオリティの高いものを安く提供することで顧客満足度をあげつつ、立ち食い、または狭小スペースの座席によって客席数を増やし、低い居住性による回転率のUPを狙う、というビジネスモデルを築きあげました。この客席数を増やし、回転率を上げるビジネスモデルは、「いきなりステーキ」をはじめとした業態にも波及し、また、居酒屋業態においては「横丁」スタイルのような、狭い座席が価値を毀損しない業態が流行りました。
このように、低単価/高単価の業態を問わず、「売上=客単価×席数×回転率」の方程式の中で、売上を最大化するための数々の方策が取られてきました。
ただ、アフターコロナの時代において、ハコモノの座席数が上限を決めるモデルは難しくなってくると言わざるを得ません。
ソーシャルディスタンスを保つために座席数を減らす、1席ごとにあける、など、「ニューノーマル(新しい生活様式)」に照らし合わせた取り組みがなされています。このニューノーマルの中では、業態によって既存のビジネスモデルでは成立しなくなってくるものが増えてきます。多くの客数を集め、大人数の宴会を取り、回転をさせる、ということは難しくなってきます。
これから考えるべきは、物理的な拠点がありつつも、その座席数だけに売上上限を縛られない収益の上げ方です。
例えば、このコロナ期間でテイクアウトやデリバリーが増えてきました。これは店舗の座席数によることのない、+αの売上です。もちろん、テイクアウトは来店が前提になりますし、デリバリーはウーバーイーツ/出前館などのプラットフォームに対する手数料が高い(35%〜42%前後)ため、利益を稼ぐことは容易ではありません。それでも、座席に左右されない売上をどう作っていくかは、大きなポイントになってきます。
例えばある程度まとまった惣菜や弁当をフードトラックによって売れる場所に持っていく、オフィスにおいてまとまった注文を事前に受け付ける、など、様々な方策が考えられます。
また、飲食店のダイナミックプライシングも大きな可能性を秘めていると私は考えます。例えば都心のカフェにおいて、コーヒー1杯で数時間座席を占有する人と、15分だけいてすぐに出る人の支払う対価は同じです。前者だけではお店の経営が成り立たないことを考えれば、前者は後者のすぐに出るお客さんの収益にフリーライドしていると言えます。公平を期すのであれば、1杯あたりの滞在時間上限、あるいは時間単位の座席料、というものがあってもいいかもしれません。また、月曜と金曜の座席の価値が同じ、ということもないはずで、ここは飲食店が提供する時間と空間にどう価値をもたらすか、という考え方ができるのではないでしょうか。
また、飲食店は一人のお客さんを数十分、場合によっては数時間、一つ所に留める力を持っているとも言えます。リアルな場で、そこまで強固な顧客接点があるという風に捉えれば、広告収入の新しい形も見えてくるのではないでしょうか。つまり、食べにきたお客さんに対するターゲティング広告などの新しい収益の形です。
さらに、飲食店のメニュー開発力を活かしたECの商品開発、というのも考えられるでしょう。自慢の一品を工場と提携して量産し、ウェブで売上を伸ばしていく。実際にそうやって商品開発を成功させている飲食店の事例も増えてきています。
もちろん、これらは今すぐにできることではありません。これまでのビジネスモデルとは違う、新しい挑戦になります。学ばなければいけないことは多く、準備しなければならないものも多い。
ただ、座席に頼らない収益の「面」を増やすことについては、考えていく価値が大いにあると思っています。これからの新しい時代を生き抜くために、外食産業は次なるフェーズへ向かっていかねばなりません。その中で、できる手段から一つ一つやっていくことが、未来を切り開く重要な一歩となるのではないでしょうか。
文=周栄行(しゅうえい あきら) 1990年、大阪生まれ。上海復旦大学、NY大学への留学を経て早稲田大学政治経済学部を卒業後、外資系投資銀行へ就職。独立後は、 飲食店の経営・プロデュースをはじめとして、ホテル、地方創生など、食を中心に幅広いプロジェクトに関わっている。