白身魚というと、タイやヒラメなど、その淡泊で上品な味わいが身上だ。
スペインで修業した「ラ・クイナ・ダン・ミシマ」の三島寛さんは「日本の白身魚は海外に比べて身が繊細できめが細かいだけに、火を入れすぎて煮崩れしないよう、優しく調理することを心がけています」と語る。
今回紹介した料理は、岡山県で活締めされた天然ヒラメを素材に、洗練されたスペイン版ブイヤベースの「サルスエラ」、つまり魚のスープをソース仕立てにしたものだ。本来、スペインのサルスエラは魚介のごった煮。しかしここでは、ヒラメの繊細さを考慮して、フライパンで別にソテーする。また、ニンニクとパプリカでアクセントをつけたサルスエラのソースは、煮つめて味を凝縮させるのではなく、一番だしのようなすっきりとした風味に仕上げることで、魚とのバランスのよさを図っている。
一方、淡泊な白身魚を「熟成」させることで味の力強さを引き出すという「シチリア料理ピスカリア」の出雲択逸さん。
「白身魚は捕れたてのものを使うよりも、数日間ねかせて熟成させたほうがおいしい。鮮度がいいと食感がシコシコしているけれど、私は、それはともすると味が弱いと感じるのです」と話す。
海が近い葉山に店を構えたのも、佐島漁港の魚を仕入れるのが目的。「築地だと、いつ締めたのか正確にわからないから」と出雲さんは言う。今回調理したアマダイも、仕入れてすぐに腹ワタを取り、3日間ほどねかせてから使う。やむをえず、それより早く使わなければならない場合は、調理の際、魚に焦げ目をつけるなどして味にコクを出す。
また今回、アマダイをアクアパッツァにしたが、基本的に水分の多い白身魚は水を加えて煮ると相性がよく、水分の少ないカマスやイサキは焼くことが多いという。
一方のシェフは白身の繊細さを生かし、もう一方のシェフは、あえて熟成させる。この違いが、料理の個性につながるのだろう。
日本の白身魚は淡泊なだけに、香りの高いすっきりしたソースを合わせて味わいを引き立てる。スペイン版ブイヤベースの「サルスエラ」は、オリーブオイルでニンニクを弱火で炒め、パプリカを加えたら手早く香りを出して一瞬で炒めるのがポイント。「焦げる一歩手前で一気に水を入れる。そうしないとスペインらしい香り高いパプリカの風味が出せない」と三島さんは言う。
材料(4人分)
天然ヒラメ(約800g)…1尾 オマール海老(約500g)…1尾 塩、コショウ…各適量 小麦粉…適量
◎ サルスエラソース
ニンニク(スライス)…5枚 パプリカ…小さじ1 水…500㎖ トマトソース…100gタマネギ…1/2個 ニンジン…1/4個 ローリエ…1枚 パセリ(茎)…1本タイム…少量 オマールの頭…1尾分 生クリーム…大さじ1
◎ 付け合わせ
バゲット(スライス)…4枚 トマト…適量 トロンペット茸…100g キャビア…適量
作り方
1. サルスエラソースを作る。オマールは殻付きのまま頭と身に切り分ける。
2. 鍋にオリーブオイル(分量外)をひき、ニンニク、パプリカを入れて弱火で焦げないように炒める。
3. 2に水を一気に注ぎ入れ、トマトソース(解説省略)を加えて全体を混ぜ、スライスしたタマネギとニンジン、ローリエ、パセリの茎、タイム、オマールの頭を入れて約30分間煮込む。これを漉し器で漉す。
4. オマールの身は、軽くボイルしてから殻を外し、1/4に切り分ける。
5. 3のソースの中にオマールと生クリームを入れてサルスエラソースとする。
6. ヒラメは5枚におろし、身に塩、コショウをふり、表面に軽く小麦粉をふる。フライパンにオリーブオイル(分量外)をひき両面を軽くソテーする。
7. スライスしたバゲットをオーブントースターで軽く焼き、カットしたトマトの果肉で表面をこする。
8. トロンペット茸はバター(分量外)で軽くソテーする。
9. トロンペット茸を皿に敷いてサルスエラソースを流し、ソテーしたヒラメを盛る。オマール、トマトのパンをのせ、最後にキャビアを添える。
白身魚は種類によって味わいや食感は多様なので、それに合わせて加熱方法を調整する。アマダイやイトヨリなど繊細な味わいの魚は、フライパンが冷たいときに身を入れて、焦がさずに調理する。力強い味わいのマダイやカサゴなどは、熱いフライパンに入れて焦げ目をつける。締めたての場合にも身が硬く、熟成による旨味に欠けるので、少し焦がしてコクを出す。
材料(2人分)
アマダイ…1尾 アサリ…4粒
ニンニク…1片(小)
ブラック・オリーブ(大・シチリア産)…4粒
ケイパー…10粒
ミニトマト…4個
バジル…1枚
オリーブオイル…適量
塩、白コショウ…各適量
イタリアンパセリ(飾り用)…適量
作り方
text by Kanami Okimura, Yukako Ito photographs by Haruko Amagata, Manabu Sugita
本記事は雑誌料理王国第186号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は第186号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。