コーラはまるで民藝。ご当地コーラづくりで、日本再発掘。ともコーラ#3ぎふで作るクラフトコーラ物語(後半)


ふるや・ともか
1992年生まれのフードプロデューサー。調香師。クラフトコーラ「ともコーラ」やノンアル専門ブランド「のん」等の飲食事業をプロデュー スする他、日本初のフードレーベル「ツカノマノフードコート」を主宰し都内に神出鬼没の食の実験場を作る。「料理王国」「Ozmagazine」「日本食糧新聞」などで連載執筆も行なう。

伊吹山は岐阜のマチュピチュ?いざ希少素材を手に。

岐阜でのクラフトコーラ作りの舞台となる伊吹山は、「日本のマチュピチュ」と称されることもあるほど山奥に存在し、辿り着くためには何重にもなる霧のヴェールの向こう側に行かなければならない。

そんな秘境の薬草たちは長きに渡って代々大切に育てられてきたものなので、ポッと出の人やプロジェクトに原材料として提供していただくのはやはり難しい。片山さんたちから聞いた都市伝説のような話だが、伊吹山ではよそ者が山に入ってきて道を聞いてきた場合、嘘の方向を教えることもあるとか…。まるでドラマ「トリック」の世界のような話であるが、そんなことがまことしやかに噂されるほど、神聖で部外者を簡単に寄せつけない場所なのである。
私はこの話を聞いた時、伝統を守るってそうゆう厳しさも必要なんだなぁ…と、いたく心が震えた記憶がある。

そのため片山さんたちは伊吹山に通い雑草摘みなど畑の手伝いをしながら、山で薬草を作っている方々との親交を深めるというプロセスを踏んだ。こうした地道な努力の甲斐あって、山の薬草を使ってクラフトコーラを作ることにご賛同いただき、一般では中々流通しない貴重な材料を購入させていただけた。

片山さんたちから聞いた話で面白いと思った小話がある。クラフトコーラなるものを理解してもらうため、ともコーラのオリジナル味を山の方々に飲んでもらった際に「昔、富山の薬売りが、こんな味のシロップを売りにきていた。なんだかとても懐かしい味がする」と言っていたという。
なるほど、クラフトコーラは天然素材で作ったものだし、元々コーラは薬膳飲料であったわけだから、富山の薬売りがかつて漢方だの薬草だのを使ってコーラ的なシロップを作って販売していたとしても不思議ではないと思った。

コーラ作りに選ばれた伊吹百草たち

私は片山さんらに連れられ伊吹山に入り、今回のコーラづくりの材料となる薬草を実際に採り、かじったり鼻に擦り付けたりしながら香りや味を確かめた。初夏の伊吹山は、生命力にあふれ鮮やかな黄緑色の山になっていた。誰もが香りを記憶しているであろうヨモギでさえも、この山では全く知らない香りのように感じた。私が知っているヨモギの香りとは違い、ローズマリーのような華やかさと柑橘のような甘みを感じた。

それからカキドオシ、和製ミントである。こちらは中々お見かけできない珍しい植物だ。「肥満知らず」なんて称されるように脂肪を分解する効能があるとも言われる。カキドオシはれっきとしたミント科なのだが、その味はミント風の清涼感と若干の出汁風味がある。(日本のハーブはどことなく、西洋のハーブよりも全部出汁っぽいと私は思っている)

伊吹山は、どこを見渡してもドクダミの花が顔を出している。白い花びらに黄色い花芯をもつ彼らは、緑の斜面でとても目立つ。伊吹山で長年生きてきたであろうドクダミも今回使うことにした。

一通り山を巡って斜面に作られた絶景ポイントの山小屋で一服もとりつつ、岐阜コーラで使用する薬草(和ハーブ)を決めていった。”ヨモギ””ドクダミ”などのメジャーどころに加え、先ほどの”カキドオシ”、そして爽やかなシナモンのような香りがする”ヤブニッケイ”を使用することとなった。他にも西洋タイムと似た味わいを楽しめる”イブキジャコウソウ”や生薬としても人気の高い”当帰”の葉の部分などを使うことも検討したが、栽培量の点で今回は泣く泣く断念した。

毎回震える現地でのコーラ試作

山を下り、メンバーの四井さんが勤める「kitchen maruko」のキッチンを使い、私は岐阜コーラの第一回試作を始めた。他のメンバーの方が見守る中、初めて扱う素材を手に調合をするのは中々に緊張する仕事ではあるが、同時に山で自ら採取したフレッシュな希少素材らを好きなようにアレンジできるのはとても贅沢だった。
歴史が詰まった材料を手に取り、岐阜文化を世に広めたい若人達の想いを背負い、クラフトコーラという新興ジャンルがどこまでやれるのかという期待を胸に抱き、全方位からくる好奇心にあの時の私はきっと目が輝いていたに違いない….。

無事に第一弾ぎふコーラの試作会は終了し、メンバーの方たちをはじめ、今回の旅に同行していたレモンサワー専門店OPENBOOKオーナーの田中開くんにも飲んでもらいフィードバックを頂戴した。伊吹百草の複雑な青みと爽やかさをトップとし、柑橘の酸味がその後訪れ、コーラの余韻が最後にくる。そんな岐阜コーラは、岐阜の薬草文化を誰でも取り込めるような分かりやすく愛される存在になってくれることを願っている。

初回製造分はほぼクラウドファンディング経由でのみ手に入れることが可能だが(一部ともコーラECにて数量販売する予定)一般販売も今年の夏以降検討しているとのこと。伊吹百草が詰まった味、そして岐阜の薬草文化の温故知新をどうぞお楽しみください。


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