2020年5月に、徳島県・上勝町で親子代々柑橘農家を営む「阪東食品」の代表より徳島県だけで育つ「柚香(ゆこう)」を使ったクラフトコーラの製造依頼が舞い込んだ。柚香には柚子と橙の交配説もあるが、実の所はっきりとその所以は分かっていない。全国的にみて上勝町で6-7割、山を挟み隣町の神谷・勝浦など隣接する場所で9割の生産となる。
日本人のほぼ全員が柚子を知っているはずだが、柚香のことは中々知らないのではないだろうか。しかしながら、ヨーロッパのトップシェフ達に言わせれば、メジャーになりすぎた柚子に代わり、秘密の香りがする柚香に惹かれる人も多いという。例えばパリのフォーシーズンズホテルではチョコレートケーキのスポンジの間に柚香ジャムを使っているらしい。阪東食品さんは徳島県の山奥に存在しながら、世界の一流店に原材料として柑橘を卸す国際的な企業であった。
そんな柚香を使わせてもらうだけで大興奮なのだが、加えて「阿波晩茶(あわばんちゃ)」まで使わせてもらえるという。阿波晩茶はその名の通り、徳島の一地域で作られる伝統的な発酵茶だ。江戸時代から変わらぬ製法で、樽に摘んだお茶の上に重石を置き徐々に乳酸発酵させていく。徳島でも有機JAS認証のある阿波晩茶は阪東食品しかなく、その希少性から常に販売量を制限しているという。
今回はそんな柚香と阿波晩茶を主役に、「トクシマ awaコーラ」を作った。柚香は柚子に花の香りを加えたような上品でセクシーな香りが漂い、阿波晩茶はさわやかな緑の香りの後すぐに香ばしさと渋みが追いかける。トップには柚香の爽やかさと酸味、ミドルに華やかさ、後味に阿波晩茶の余韻が続く味わいを目指した。
阪東食品の現代表・阪東さんは、長年に渡り柑橘や関連加工食品の海外輸出実績を作ってきたやり手の方だ。そんな阪東さんにかかれば徳島コーラだって華々しい展開が無いわけがない。今後、徳島コーラの展開にはビッグニュースがいくつもある。一つは日本中に展開する大手高級スーパー「成城石井」さんに今年のゴールデンウィーク明けから置かれるということ。更に、現在フランスをはじめ世界各地から早速取引依頼が来ているらしい。そして日本のクラフトビール界を代表するとあるブリュワリーとコラボレーションを行い、徳島コーラ製造時にでるスパイスや柑橘のガラを利用した新たなビールも開発に向け実験を行なっているという。グローバルとローカルの太脈を共に抑え、飛び立っていく徳島コーラが誇らしい。
ここからは突然の旅行ガイドになってしまうが、上勝町は(そして隣町の神山町も)刮目すべき地方再生成功事例である。上勝では「ゼロウェイスト」を掲げ、村人たちは45種目にわたるゴミ分別を日常的に行い、ホテルや商業施設も廃機材を使い唯一無二の高いデザイン性の建築になっている。そして上勝にも神山にも実験的なブリュワリー集団が存在する。(クリエイティブな町の重要な一指標)神山町はIT企業のサテライトが集まり、新たな人口流入と産業誕生により、街には美味しく若い飲食店が沢山ある。深き山間部にこのようなクリエイティブな町が点在する徳島は一度は訪れたい注目の県だった。
阪東食品HP:http://bando-farm.com/index2.html
awa徳島コーラの販売ページ:http://bancha.cart.fc2.com/ca4/30/p-r-s/
ふるや・ともか
1992年生まれのフードプロデューサー。調香師。クラフトコーラ「ともコーラ」やノンアル専門ブランド「のん」等の飲食事業をプロデュー スする他、日本初のフードレーベル「ツカノマノフードコート」を主宰し都内に神出鬼没の食の実験場を作る。「料理王国」「Ozmagazine」「日本食糧新聞」などで連載執筆も行なう。