国領で理想のリストランテを追い求める「ドンブラボー」平 雅一さん


国領で理想のリストランテを追い求める

ドンブラボー 平雅一さん

「国領」と聞いても、どこのどんな町なのか、知らない方も多いではないだろうか。その国領で今、都心からも注目を集めるイタリアン「ドンブラボー」。これまでの歩みを伺った。

一番大切だと感じたのは生きた土地勘があるかどうか

「独立する時、最初は当時住んでいた目黒を中心に都心で物件を探していたんですよ」と話すシェフの平雅一さん。だが、高額な家賃の壁に阻まれ、方々を探し歩いた結果、行き着いたのは自らが生まれ育った地元・国領だった。どんな気質の人たちが住んでいるか。周辺に大きな病院や会社があり、そこへの人の流れを拾える場所か。人が増えていく町なのか、減っていく町なのか。数度足を運んで見ただけでは感じ取れないような、それらの生きた土地勘があることが一番大切だと感じたという。そして2012年6月、国領にイタリアンレストラン「ドンブラボー」をオープンした。

国領は京王線で新宿まで約30分。周辺にはマンションが増え、住人の数も増えている。だが、飲食店は少なく、ライバルとなりそうな店は見当たらない。近くに大学付属病院があり、そこへの動線となる国道の脇に店舗を構えた。駅からわずか徒歩3分ながら家賃も安かったため、20坪という広さで、理想に近い内装・設備で営業を開始することができた。しかし、平さんが目指す“リストランテ”をこの国領という土地で実現するには、ここからしばらくの年月を要することとなる。

20坪の店内に、ゆったりとテーブルを配置。店の正面は総ガラス張りでポーチもあり、空間を贅沢に見せている。都心では難しかった理想の形。

まずは町に合わせて認められ徐々に理想のリストランテへ

 国領は郊外の住宅地。都心とを行き来する住民の、舌は肥えているが、国領でリストランテのコース料理を食べるという感覚はない。この点はまず町に合わせた。昼はセット、夜もアラカルトにして客単価を低く設定し、町の人たちに自分の味を知ってもらった。その結果店は連日満席に。そして昨年4月、夜を4000円から1000円刻みで1万円までのコース料理のみにした。夜の地元客は減ったが、さまざまな要望に臨機応変に応えつつ踏みとどまった。内装やサービスも改善し、徐々に“リストランテ”へ近づけていったという。

 平さんの創造性豊かな料理は徐々に認められ、都心からも食通たちが足を運ぶ話題の店に。高い家賃や食材のロスなどに悩まされず自分のやりたい料理に力を注げたこと、インターネットでの口コミが広がったことも幸いした。今では地元住民にとっても、記念日に訪れる“ハレの日の店”に。そして5周年を迎えた今年4月から、コースを5000円、7000円、1万円の3本に絞った。「今は売り上げも上がり、スタッフの待遇や食材にも反映できています。これからもこの国領で、チャレンジし続けていきたいと思っています」

カウンター前の目立つ位置に設置されたピザ釜。ガラス張りの入り口からよく見える。通りがかりの人にも一見しただけで「釜で焼いたピザが食べられる=本格イタリアンの店」と認識してもらうための、郊外ならではの工夫。この釜でピザ以外の調理を実験的に行うこともある。

「ドンブラボー」立地データ

最寄駅
国領駅。新宿から京王線を乗り継ぎ約30分。開発の進む調布駅のふたつ手前、各駅停車のみの停車駅。マンションの増加などにより人口は増加しているが、商業施設や飲食店はあまり充実しているとは言えない。

お客さま属性
30代~40代。昼は周辺住民が主。夜は近隣よりも都心もしくは10km圏内からの来店が主となる。夜をコースのみにしたことで地元住人の来店は減少したが、ハレの日利用の店として再認識され盛り返しつつある。

ストロングポイント
生まれ育った地元であるため土地勘があり、人とのつながりも強い。また、家賃が安いため、その分を食材や内装・設備の充実に充てられる。原価率を無理に抑える必要がなく、自らが求める料理をストレスなく追求できる。

ウイークポイント
高感度な都心のお客さまの来店につながるまでの早さや頻度は、都心の店舗に劣る。そのため、メッセージ性・独創性のある料理を発表しても、反応を得るまでに時間がかかる。インターネットなどを活用し積極的に発信しなければ埋もれてしまう。

スペースを贅沢に使い、店の中央にドリンクテーブルを設置。ここからソムリエがお客さまにドリンクをサーブする。自然派のワインや日本酒など、こだわりの品揃えがお客さまの目に入りやすく、ソムリエの存在感も増す配置だ。サービスの質も向上させ、お客さまの信頼獲得につながっている。

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河﨑志乃=取材、文  岩橋仁子=撮影  

本記事は雑誌料理王国276号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は276号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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