流通網が発達した現在においても、絶対に仕入れられない食材……。それは、自家栽培の野菜やハーブです。気軽なプランター栽培であなたの店だけの「オリジナルのメニュー」を作りませんか?
自家栽培が絶対的に有利なのは、その食材がほかでは入手できないという点だ。ハーブひとつとっても、一般流通品と比べると、自家栽培品は鮮度の点で勝り、厳密な意味では香りも異なる。
さらに芽や花、未熟果、過熟果など、流通に出回らない段階のものを食材として使うことができるのも、差別化につながる大きな利点だ。
たとえば、トマトであれば、グリーントマトの状態でも収穫できる。あるいは、ハーブならば調理用に香りの強いバジルも、サラダ用に葉のやわらかいバジルも作れる。自分のめざす料理の味わいに合わせ、ほしいハーブや野菜ができるのが、自家栽培の最大の魅力だろう。
今回はコンテナ(容器)栽培の中でも、プランター栽培にスポットを当て、比較的育てやすい野菜やハーブの栽培法を紹介する。
利点は、手軽に始められて、可動性が高いこと。栽培のポイントは、日当たりや風通しのムラなどは移動によって調整できるので、水と肥料をいかに適切なタイミングで与えるかという点に尽きる。畑と違って土のある範囲が限られているので、水と肥料の調整はしやすいともいえるが、いずれも人為的に与えなければ、枯れてしまう。
ここでは2種類の栽培法を紹介する。まずは、あらかじめ培養土を使って気軽に始める、一般的な方法。次に栄養素を含まない水はけのよい火山灰軽石を用い、栽培中に液体肥料と水で調整する、永田農法の栽培方法だ。いずれも、手軽だが「手間」はかけなくてはならないという点は一致している。気軽に始めて、愛情を込めて成長を見守ってほしい。
春まき(植え)
カイワレダイコン、パセリ、シソ、クレソン、フェンネル、ラディッシュ、コカブ、インゲンマメ、ミニトマト
夏まき(植え)
カイワレダイコン、コマツナ、ミニトマト
秋まき(植え)
カイワレダイコン、ツケナ類、クレソン、ラディッシュ、コカブ
[JA全農編]取材協力/JA全農
Point
○ 土底に軽石を敷き、水はこまめに与える
○ 強すぎる日差し、大雨は苦手
○ 間引きで収穫期間を延ばす
プランター栽培で、初心者にも比較的取り組みやすいのが、コマツナだ。何よりも夏期であれば25日間程度で収穫可能と、生育期間が短い点がよい。
自身でも野菜のコンテナ栽培に取り組んでいる、全国農業協同組合連合会「JA全農」広報部の澤田洋志さんによれば、「栽培している間の楽しさも、大切なポイント」。そういった点では、かわいらしい花をつけ、同じく育ちやすいインゲン豆もおすすめの野菜だ。
畑での栽培よりも、頻繁に目をかけなければならないプランター栽培の場合、生長の変化が著しいほうが、やりがいも高まる。同時に、収穫までの期間の短さは、レストランで食材として使う場合には便利だ。
さらにコマツナ栽培では、一般の流通では入手不可能な若葉(間引き菜)が採れ、しかもおいしい。ありがたいことに、間引きをするほど、収穫可能な期間が延びる野菜でもある。次ページで紹介するハーブの若芽などと合わせても、新鮮で個性的なサラダになるだろう。
栽培方法だが、コマツナは沖積土でもっとも良品に育つとされるものの、澤田さんによれば、最初は適切な土の配合で初期肥料が含まれている、市販の「培養土」を使えば、点以上の仕上がりにはなる。
水が足りないと葉が硬くなってしまうので、水はこまめに与えたいが、じめじめしているとカビが発生する可能性がある。プランターの底に軽石を約5㎝入れてから培養土を入れると、水はけがよい。
コマツナに限らず、コンテナ栽培の場合は、限られた範囲の中で何度も水を与えるため、肥料が不足しやすい。緩効性の化学肥料や固形の油粕などを間引きが終わった時点で入れるとよい。
[永田農法編]
Point
○ 健康な苗を選んで根を切る
○ 水やりはこまめに
○ 肥料はメリハリをつけて与える
「甘くて果肉がしっかりしている」と多くのシェフから高い人気を集める永田農法のトマトだが、ミニトマトであれば、永田農法のトマトを自家栽培できる。
「原産地に近い環境がその作物(植物)にとって、もっとも理想的」とする永田農法の効果を、その味わいで実感できるのが、ミニトマト栽培であり、かつ比較的栽培の容易な作物でもある。
トマト栽培は、原産地であるアンデス高地に近い環境に近づけるというのがポイント。水はけのよい火山性軽石の日向土やパミスを使い、日当たりのよい場所で水と肥料を適切な時期に与えれば、理想的な環境に近づく。水分を空気中からも吸収するため、葉や茎に細かい産毛が生え、甘く引き締まった実をつける永田農法のトマトを収穫できるはずだ。
4〜6月の時期であれば、苗から育てることになるが、永田農法の場合は、健康な苗を選び、その根を洗って一部を切り落とすというユニークな方法で、植物(ここではトマト)の持つ力を活性化させる。
注意したいのは、水と肥料を与えるタイミングだ。永田農法を実践する永田洋子さんによれば、永田農法は「スパルタ農法」というイメージが強いので、初心者の場合、水と肥料をやるのが遅すぎて、枯らしてしまうことがあるという。与えすぎは禁物だが、水は土の表面が乾いたらやり、肥料は週に1回程度は与えてほしい。害虫がつくことは少ないが、まれに葉の中に潜り込むハモグリバエや夜間に葉を喰い荒らすヨトウムシが付くことがある。前者は、葉の間に潜り、痕跡が筋状になっているので、見つけたら早めに虫のいる茶色い部分をつぶす。後者は夜、懐中電灯を当てて虫を探し、つまんで殺すのが、もっとも効果的な方法だ。
[永田農法編]
Point
○ 水と肥料はメリハリをつけて
○ 原生地の環境に近づける
①土壌のPH ②風通しや日照
ハーブを自家栽培するメリットは多い。まず、ハーブはフレッシュ、セミドライ、ドライなど、香りは状態によって異なるが、自分がほしい香りに合わせて加工ができる。
次に若芽や花などが入手できる。たとえば、フェンネルは根の部分だけではなく、若葉にもよい香りがある。また、花には甘味があるので、バジルと同様、デザートに使える。
ラテン語の「草」が語源というだけあって、ハーブは育てやすく、樹勢が強いのでプランター栽培に適している。ミントなどは、勢いが強すぎてほかのハーブを侵食してしまうので、むしろプランター栽培が適する。永田農法のハーブは高い香りを得られることで定評があるが、これは水分や肥料の量を必要最小限に抑えているため。プランターに1種類ずつ植えれば、あらゆる点で調整がしやすい。オレガノやローズマリーなど、南ヨーロッパや地中海原産のハーブは、弱アルカリ性の土を好む。日向土などの火山性軽石に、貝化石石灰などを少量混ぜてやるとさらによい。また、タイムやローズマリーは高温多湿が苦手なので、梅雨前に少し刈り込み、風通しをよくする。
フェンネル
大きく育つので、プランターには余裕を持って植える。65cmの深さのプランターであれば、2株。日向土に貝化石石灰約2gを混ぜて、1カ所に2~3粒の種を蒔き、ごく薄く砂をかぶせる。本葉が2~3枚になったら、間引きする。水やりは、土の表面が乾き、中を少し掘っても乾いているとき。液体肥料(注2)は週に1回、1000倍に薄めて与える。
ミント
ペパーミント、アップルミントなど種類が非常に多いが、近縁種を一緒に栽培すると交雑し、それぞれの特徴が失われる。種は春から秋に筋蒔きにするが、発芽までの管理が少し難しいので、苗から植えたほうが初心者向き。夏の高温には弱いので、盛夏は半日陰で育てる。乾燥には非常に強い。液体肥料は夏は1000倍を1週間に1回、冬は600倍を月に1回程度与える
バジル
5月以降に日向土に苗を植えると失敗しにくい(苗の処理方法は84ページのトマトを参照)。65㎝深さのプランターの場合は2株。本葉10枚以上になったら、中心の一番伸びているところを摘んでわき芽を伸ばし、約 20cmから収穫開始。水は土の表面が乾いたらやる。肥料は香り高く仕上げたい場合は、1000倍の液体肥料を2週間に1回、柔らかい葉に仕上げたい場合は週に1回。
永田農法の特徴
痩せて水はけのよい「日向土」や「パミス」などの火山性軽石を用い、肥料と水は必要最小限の量のみを用いる、というのがコンテナ栽培の永田農法の特徴。ストレスにさらされた植物は、水や栄養分を効果的に吸収するので、香りや味が濃厚になる。また、植物の原産地に近い環境を、人為的に調整しやすい農法でもあるため、肥料や水の量が一定するコンテナ栽培にこの農法は非常に適している。たとえば、バジルのように肥料の多寡によって葉の硬さや香りが調整できるハーブなどの場合、サラダ用や調味用など、用途に合わせて栽培が可能。これは大きな魅力といえるだろう。
伊藤由佳子=文・構成、伊藤尚彦=イラスト
本記事は雑誌料理王国189号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は189号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。