市場から魚を仕入れる方法は、直接購入だけではない。注文に応じて築地で魚を購入し、飲食店等に納入する、通称「納め屋さん」という人々に依頼することできる。そんな料理人の陰のサポーターである彼らの仕事を紹介しよう。
「電話やメール注文も増えましたが、仲卸業者はもともと、市場に直接足を運ぶ人中心に相手する仕事。それに対して、納め屋は飲食店に代わって食材の仕入れをする、いわば購入代理業です」
確立した定義はないが、と前置きしつつ語ってくれたのは、個人の「納め屋」さんである、シアラー・代表取締役の高橋直司さん。2年前、大手仲卸からに独立。顧客は約30軒で個人経営の都内のレストランや居酒屋が主な取引先だ。
築地市場で買い物をするなら朝6~8時ごろが相場。営業が深夜に及ぶことも多い飲食業は、早朝の築地通いがむずかしい場合も多い。ランチ営業をやっていればなおさらだ。そこで飲食店に代わり必要な魚介類を仕入れるのが、高橋さんの役目である。日々の買い付けは事前に取り決めた内容が中心。それに加え、「今日のおすすめ」を紹介することもある。ちなみに高橋さんの「おすすめ」とは、収穫量が少なく、めずらしい種類の魚のこと。築地をくまなく歩いているからこそできる提案である。
いっぽう、創業1850年、納め屋大手の足立商店・代表取締役社長の足立純子さんは、自らの職業を“目利き屋”と称する。
「私たちの仕事は単に買い物代行ではありません。日々の営業活動のなかで、ときにメニューの相談を受けたり、喜んでいただけそうな魚介類が入った場合はこちらから提案します」
足立商店の場合、約9割がホテルと大口中心。納品量が多く、分業制をとったこともあったが、現在は受注から仕入れ、加工、納品までを担当者が一貫して行う。取引先の好みや状況を日々把握することで初めて、ニーズに応じた細やかな対応ができるという。
「私たちは顧客にNOと言いません。シケで予定していた魚が入らないときも、長年かけて築いた人脈を駆使し、築地中をかけずり回って調達します」
現在、納め屋の重要サービスのひとつが、依頼に合わせた魚介の加工である。たとえば場内に加工場を持つ足立商店の場合、3枚におろす程度のことから、5センチ四方の角切りに、1センチ幅という細い規格にまで対応する。とりわけ大口顧客はコストや労働時間の問題で、加工依頼の割合を高めている。
「味噌漬けを作って納めたことも。味噌から探して取り組みました」
さて納め屋の将来性はと問うと、両者ともニーズは高まっていると言う。飲食業と築地の営業時間ギャップを埋め、一部業務のアウトソーシングを請け負う納め屋は、料理人にとって欠くことのできない存在。だがそれゆえの課題もある。高橋さんは、こう語る。「大手飲食チェーン店より個人店のほうが、店舗総数は多い。そこに僕ら個人の納め屋が重宝されていることは強く感じるのですが、今度は時間帯の差がネックになり、なかなか飲食業の方に出会うチャンスがない。現状、新規開拓はもっぱら口コミです」
大手とて安泰ではない。「魚のカットひとつとっても、求められるものがより細かくなっています。それにきちんと対応し、応えられるだけの技量をもっていないといけません」と足立さん。”ニーズ“と”ニッチ“の掌握。これがこれからの納め屋のカギといえよう。
羽根則子=文
本記事は雑誌料理王国2018年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2018年12月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。