【飲食店の賢い魚介の仕入れ術】東銀座「木挽町 とも樹」


土地の魅力を寿司という手段で表現したい

木挽町 とも樹 小林智樹さん

この日、「木挽町とも樹」には佐賀県唐津からアラ(クエの九州での呼称)が届いた。天然ものは非常に珍しい高級魚だ。同店は寿司だけでなく、料理も評判の店。本日はアラ尽くしのメニューになるという。「そんなことができるのも店の売りになります。お客さまも『次は何を食べさせてくれるの?』と期待してくれます」と小林智樹さんは話す。アラのような魚が手に入るのも、産直漁港との関係があってこそ。実はアラのルートは、佐賀県出身のお客から紹介された。「すぐに、現地に行きましたよ」。

気になる漁港へひとっ飛び。付き合いはまず対面から

とにかくフットワークが軽い。3連休になれば、気になる漁港へ向かう。「電話で発注することもできますが、卸してくれる人の姿や人柄も知りたいし、現地の風景も眺めてみたいのです」。そうして築いた産直ルートは、気仙沼、佐渡、小田原、淡路島、萩、唐津。次の休みは北海道の礼文島に行く。「いいウニがあると聞いたもので。来シーズン(6〜8月)は入れますよ」といかにも楽しそうだ。ネタの8割は築地で仕入れるが、産直ものが2割あるだけで店の個性は際立つものだ。ただ、欲しいものが思いどおりに手に入らないのが産直の難しい点。欲しい魚があると、真夜中の競りに合わせて電話連絡しなければならないこともある。

「とも樹」の客席には時々日本地図が登場する。小林さんは、その日のネタがどこからやってきたのか、漁港でのエピソードも交えてお客に話をする。「学生時代は自転車で全国を巡り、多くの人、食べ物に出会いました。私の仕事は魚を通じて各地の魅力を表現すること。おいしい魚は背景を含めて味わってもらいたいですね」。

ある日の仕入れ
アラ(唐津)→ 刺身、湯引き、握り、酒蒸し
タチウオ(平塚)→ 刺身、焼き物
戻りガツオ(気仙沼)→ 刺身、握り
アカウニ(唐津)→ 握り

こんな魚介を産地直送で仕入れています
ケンサキイカ、赤エビ(萩)
アカウニ、塩ウニ(唐津)/キジハタ(唐津、萩)/バフンウニ、ムラサキウニ(礼文島)/黄アジ(小田原)
戻りガツオ(気仙沼)/サバ(唐津)
クエ(和歌山)/アマダイ(萩)/ブリ(佐渡)/トラフグ(鐘崎)

小林智樹さん
1974年東京都生まれ。大学卒業後、「手に職をつけたい」との思いから、勝どきの「鮨 さゝ木」など寿司店数軒で修業。2007年3月独立。次の目的地は金沢の漁港、「築地にはない魚を探しに行きたい」。

羽根則子・構成 松野玲子・文 長瀬ゆかり・写真

本記事は雑誌料理王国2011年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2011年11月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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