人の集まる店には、「これが食べたい」と思わせるメニューがある。ラッセでいえば、「4種類のチーズのアネッリ」がそれにあたるだろう。アネッリは村山太一さんが、ロンバルディア州マントヴァ郊外の三ツ星レストラン「ダル・ペスカトーレ」で働いていたとき、シェフのナディ・アサンティーニさんに教わった小さなリング状のパスタである。
生地を乾燥させたくないので、これをつくるときは、エアコンも換気扇も止める。生地のなめらかさを大切にするために、グルテンは極力ださないように粉と卵を合わせる。
「粉も30くらい試した結果、日清バイオレットがいちばんしっくりきて、今もそれを使っています」
生地をまとめて半日寝かせたら、あとは一気の作業だ。
「じつは、下に敷くソースはダル・ペスカトーレにはなかったんです。これは日本のお客様に出すために、僕が考えたもの」と村山さん。そばやうどんの文化が根づく日本では、つゆに代わるソースがあったほうが馴染みやすいと考えたからだ。「ナディア直伝の伝統料理ですが、古くさい料理にしてはいけない。それが、ナディアに続く僕たちの使命だと思っています」
チーズと生クリームで作ったソースの上に盛り付けられた、鮮やかな黄色のアネッリが美しい。ソースをまとわせてひと口で一気にいただくと、4種類のチーズの味がホワッと口中に広がった。繊細でありながら、とても力強い味わいのひと皿である。
ラビオリ生地
卵黄…490g/薄力小麦粉(日清バイオレット)…520g/塩…ひとつまみ/オリーブオイル…30㏄
チーズの詰め物
マスカルポーネ…350g/パルミジャーノ・レッジャーノ…200g/手作りリコッタ…200g/ガルバーニモッツァレラ…3個/塩…3つまみ
手作りリコッタチーズ
牛乳…1L/生クリーム…50㏄/レモン汁…23 g/塩…ひとつまみ
ソース
生クリーム…200㏄/パルミジャーノ・レッジャーノ…50g
なめらかな食感にするために、グルテンが極力でないように生地の材料を混ぜる。パスタマシンに5回ほど通して薄く伸ばしたら、4種類のチーズを混ぜ合わせたものを生地に乗せていく。
およそ7cm角に切りそろえられたマスタの上にチーズを乗せ、生地を三角形に折って端をくるりと丸めれば出来上がり。ここまできて、ようやくエアコンと換気扇のスイッチがオンに。暑さとの闘いでもある。
Taichi Murayama
2000年にイタリアに渡り、二ツ星店を2軒経験したのち、三ツ星レストラン「ダル・ペスカトーレ」に入店。シェフのナディア・サンティーニ氏のもとで、徹底的にイタリア料理を学ぶ。 2008年に帰国。2011年5月に東京・目黒に「ラッセ」をオープンさせた。
本記事は雑誌料理王国2014年8月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2014年8月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。