日本のチーズ熟成士のパイオニアが考えるチーズ


本場のチーズを、日本でも同じレベルで提供したい

日本のチーズ熟成士のパイオニアが考えるチーズ

チーズ専門店「ユーロアール」は、東京・学芸大学の住宅地にある。オーナーの鈴木荒太さんは、日本におけるチーズ熟成士のパイオニアだ。


「日本ではチーズ専門店というと、輸入したチーズを並べて売るというイメージがありますよね。でも、フランスでは、店に熟成士と呼ばれるチーズのプロがいて、仕入れたチーズを熟成させています」

スリーズベール
自家調合のブランデーにくぐらせたカマンベールを、南伊豆の大島桜の葉で包んでいる。春を思わせる日本的な味わいは、日本酒と合わせても楽しめそうだ。

チーズ熟成士の仕事について問うと「鮮魚店とレストランの関係に似ている」と、教えてくれた。市場で仕入れた魚を、そのまま売るのが鮮魚店、仕入れた魚を調理して出すのがレストラン。同じように、輸入したチーズを熟成士が熟成させ、それをチーズ専門店で提供するということだ。

熟成士としての鈴木さんの仕事は、おもに店に届くチーズの状態の見極め、そのチーズに適した温度や湿度での管理、チーズに合った適正な処理(熟成)を施すことである。

トゥリュフベール
完熟したカマンベールに上質なクリームチーズと最高級トリュフを合わせたオリジナル。芳醇な香りが魅力だ。


「到着したばかりのチーズは、まだ芯があったり、水分が多かったり、本来のおいしさが出ていない状態です。おいしく食べられるようにするには、メンテナンスと追熟が必要」。ここが熟成士の腕、技といえるわけだが、チーズは発酵食品であり、計算どおりにはいかないこともある。

プレゼントやお土産に人気のギフトパックは、好きな物を選んで作ってもらうこともできる。ショーケースの右側上段に並ぶオリジナルチーズの数々は、1/4ピースから売られているので買いやすく人気の商品だ。

「チーズは人が作るものではないんです。微生物が自らの子孫を残すための日々の活動の中ででき上がります。それを私たちがいただいています。ですから、大自然の法則を考慮しないすべての操作はチーズをだめにしてしまいます。私は、『自然界の道理から大きく逸脱しない範囲で何ができるのか』それを模索することが、『熟成』だと思っています」

ショーケースには所狭しと、輸入とオリジナルのスペシャルチーズ約120種類が並ぶ。遠路はるばる来る人もいれば、近所に住む人も来る。「チーズのことなら、何でも気軽に相談してください」と鈴木さん。


「ユーロアール」では100種類以上のチーズが売られており、鈴木さんはオープン以来、これらのチーズの熟成を行ってきた。鈴木さんがある程度経験を積んだとき、レシピのないものに挑戦したくなったという。そして生まれたのが、トリュフ、桜の葉、ドライフルーツなどを合わせたオリジナルのスペシャルチーズだ。
「星空を見たり、美術館に行ったり……、日常の生活でインスピレーションが浮かんだら、新しいチーズを作ってみます。失敗もたくさんありますよ。これからもアイデアを思いついたら、作っていきます」

ユーロアール 代表  鈴木荒太さん

食品関連会社に勤務し、商品として携わるうちにチーズに魅せられる。17年間勤務後、退社して単身渡仏。フランス・ディジョンのチーズ専門店で3年間働き、帰国。2000年「ユーロアール」をオープン。

ユーロアール
Euro Art
東京都目黒区中央町2-35-17
☎03-5768-2610
●11:15~19:00 
●月休(祝日の場合は営業)
www.euro-art2001.com

平山裕子=取材、文 ナカムラユウコ=撮影

本記事は雑誌料理王国272号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は272号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


SNSでフォローする