ナポリから学んだ地方料理の原点「フジッリ・チレンターニ」



パスタこそイタリア料理の生命線

杉原一禎さんは、23歳のとき、コネもなく単身でイタリアへ渡った。新しい料理との出会いを求めて、カンパーニア州・ナポリへ。

「現地の調理は驚くほどシンプルなのに、旨いんです。しかも、同じような味のパスタを毎日、愛おしむように食べるんですよね」

なぜなんだろう。レストランで働きながら考え続けた。そして、ある時、当たり前のことに気づいた。イタリア料理とは、ずっと受け継がれてきた地方に根付いた料理であり、パスタはその代表格。毎日飽きずに口にできるのは、それだけ完成度の高い証拠なのだ、と。同じように作り続けているのではなく、日によっ
て粉や水を微調整し、ゆでる時間なども、自分の目や舌、感覚で判断する。だからこそ、毎日食べてもおいしいのだ――。その日から伝統的なナポリ料理に魅了され、気がついたら4年余、ナポリと、近郊のソレントで修業を重ねていた。

フジッリ・チレンターニ
ナポリ近郊の街、サレルノで親しまれている郷土パスタ
チレンターニとは、ナポリ南東の街、サレルノのことであり、その土地で親しまれている手打ちパスタ。生地に棒を巻き付けて穴あきパスタを作る。棒は串を使っているが、元々は編み物の棒が用いられていた。

カンパーニア州のブランドトマトとして有名なコルバーラ種。福岡県でナポリ農夫が栽培している同種は、火を入れても煮崩れしない、まるでイタリア産のようと評される。

そこでしか食べられない郷土料理 フジッリ・チレンターニ


南イタリアでは、家族が揃う週末に、マンマが手間ひまかけて手打ちパスタをふるまうという。杉原さんは、ナポリ近郊のサレルノ出身の同僚宅へ招待された。そこでサレルノの郷土のパスタ、フジッリ・チレンターニと出会った。フジッリはよくあるらせん形ではなく、中心に穴があるブカティーニ風の太麺。口に含むと程よい弾力があり、穴があるのでツルンと喉を通る。はじめて味わう食感だった。ナポリはイタリア乾麺の発祥地と称されるだけあって、多種多彩な乾麺が豊富にある。一方、手打ち麺はラザニアとニョッキが主流だった。それだけに、このフジッリ・チレンターニに興味が湧き、マンマを質問攻めにした。

帰国後、さっそく試作した。しかし、配合や練り具合なども、現地で教わった通りにはいかない。ナポリ人がしていたように、自分の感性を信じて微調整を繰り返し、ようやくレパートリーのひとつにしたのだ。

今回合わせたソースには、サレルノ原産のコルバーラ種のトマトをふんだんに用いた。このひょうたん型のトマトは、福岡県でナポリ出身のイタリア人が栽培する。ソースの粘性を強めるペクチンが多く含まれ、乳化しやすく、パスタとの絡みも抜群だ。仕上げに酸味の強いヤギのチーズを加え、味に膨らみをもたせる。
ナポリ料理を愛する杉原さんの、パスタへの思い入れは人一倍強い。

「イタリア料理人にとってパスタは生命線であり、はずしてはならないもの。だからこそ最大の武器になると考えています」

新しい食材を提案したいときにもパスタは重宝だ。メインで試すよりパスタの方が表現しやすいからだ。これまで取り入れていなかった鮎など、日本らしい食材も今後は加えていく予定という。常連のイタリア人を満足させるレベルを保ちつつ、愛するパスタで新たな展開をめざす。

杉原さんのフジッリ・チレンターニ

● 小麦粉 セモリナ粉…200g
● 水 100g

卵を入れない生地には、細挽きのセモリナ粉「セモラ・リマチナータ」を使用。粉と水の割合は2:1。9割はこの配合を基本にしているが、季節やパスタの種類によって水の温度を変えたり、2cc単位で量を微調整する。

生地を串に巻き付けて伸ばすと、必然的に圧がかかるので、生地が串に引っ付きやすくなる。それを避けるためには、成形後すぐに串を抜き取ること。数秒遅れるだけで、串に付着してしまう。

ここがポイント!

パスタの長さはソースに合わせて調節

生地を少量ずつ、鉛筆の太さくらいの棒状に伸ばす。その生地をスケッパーで3~4㎝に切り分ける。パスタの長さや厚さで味が変わるので、ソースとの相性で長くすることも。

直径1.2㎜の串を使って成形する

生地のまん中に金属性の細い串を置き、細長く伸ばしながら軽く巻き付ける。セモリナ粉は力を入れすぎると生地が切れやすくなるので注意が必要。成形後、すぐに串を抜き取る。

必ずしも均等でなくてよい不揃いの方が楽しめる

パスタの長さは約20㎝にしたが、必ずしも均一にする必要はない。厚さや長さが不揃いの方が様々な味や食感が楽しめるから。それもフジッリ・チレンターニの魅力のひとつ。

カンパーニア州サレルノに根付いた地方色豊かな手打ちパスタ。用いるのはセモリナ粉と水のみ。うどんほどもちもち感はないが、手打ちショートパスタよりも
ツルンと喉を通る感覚。珍しい食感が楽しめる。

九州のナポリ人農夫が作るサレルノ原産のコルバーラ種のトマトとルーラルカプリ農場のヤギのチーズのソース


加熱すると華やかな香りとコクが出るコルバーラ種のトマトに、相性のよい酸味が利いたヤギのフレッシュチーズを合わせ仕上げる。程よい弾力をもつパスタがソースと絶妙に絡む。シンプルな調理だからこそ、技術力が問われる南イタリア料理ならではのひと皿。

材料
◦手打ちフジッリ・チレンターニ(作りやすい分量)セモリナ粉…200ℊ/水…100ℊ
◦トマトとヤギのチーズのソース(1人分)コルバーラ種のトマト…160ℊ/ヤギのフレッシュチーズ…15ℊ/エクストラヴァージンオリーブオイル…20㏄/バジリコ…2枝/ニンニク…1片/塩、パルミジャーノ・レッジャーノ、ペコリーノ・ロマーノ…各適量

作り方

  1. フジッリ・チレンターニを作る。粉と水を合わせ手で練る。コシを出してからひとまとめにする。
  2. 1をスケッパーで少量ずつ切り分ける。切り分けた生地を手のひらで鉛筆の太さに細長く伸ばし、3~4㎝に切る。
  3. 2の3~4㎝に切った生地を手のひらで伸ばし、串を生地にのせ、ころがしながら細長く伸ばし巻き付ける。
  4. 成形ができたら、串をすばやく抜き取る。
  5. ソースを作る。トマトのヘタを取り、縦半分にカットする。
  6. 鍋にエクストラヴァージンオリーブオイルを入れ、ニンニクを炒める。色づき始めたら、バジリコを入れ、5のトマトを加える。
  7. 塩を入れて、すぐにパスタのゆで汁25㏄を加え、約1分弱、蓋をする。
  8. スプーンでトマトを軽くつぶす。ニンニクとバジリコを取り除き、火を止める。
  9. 4のパスタを約4分間ゆでる。
  10. ゆであがったパスタを8の鍋に入れる。
  11. 10に刻んだバジリコを入れ、パルミジャーノ・レッジャーノとペコリーノ・ロマーノ2種類のチーズ、ヤギのチーズの順に加えてから火を点ける。すばやくパスタとソースを絡め皿に盛る。

仕上げに加えるのは、岡山県の牧場で飼育されているヤギのフレッシュチーズ。酸味が強いのでフレッシュトマトソースと相性がよい。甘いリコッタやモッツァレッラチーズは味がしつこくなるので合わない。

Kazuyoshi Sugihara

1974年兵庫県生まれ。地元のリストランテで5年間の修業を経て、1997年に渡伊。カンパーニア洲ナポリ、ソレントのレストランで4年間経験を積む。
また、パスティッチェリアでも学び、菓子にも精通する。2002年、芦屋市内に「オステリア オ ジラソーレ」を開業。

オステリア オ ジラソーレ
OSTERIA O’GIRASOLE

兵庫県芦屋市宮塚町15-6 キューブ芦屋1F
☎0797-35-0847
●11:30~14:00LO、18:00~21:00LO
●水曜休、月1回不定休
●コース 昼2900円~、夜6500円~、
アラカルト2000円~ 
●20席
www.o-girasole.com/

飯塚真里=取材、文 三國賢一=撮影

本記事は雑誌料理王国253号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は253号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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