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【レシピ】小林幸司さんによるパスタの基本と再構築


基本そして再構築。発想を変えるとベーシックが進化する

小林幸司さん

日頃、乾麺を使っていない小林幸司さんに、今回特別に「もしも店で乾麺を出すとしたら?」ということを前提に、ベーシックなパスタと、その進化形のパスタを作っていただいた。

現在、小林幸司さんは乾麺を店で出していない。しかし、けっして乾麺を軽視しているわけではない。手打ちに比べると乾麺のほうが、むしろ合わせるソースをシビアに考えるべきだと小林さんは話す。「乾麺は種類がいろいろあります。ロングかショートか、穴があいているかいないか、表面に溝があるリガーテなのか。またブロンズダイスで加工されたのか、ステンレスで加工されたかによって、すべてソースが変わってくるんです」と独自の乾麺論をよどみなく語り始めた小林さん。「たとえば、ペンネ・アラビアータは、穴があいているからこそ咀嚼したときに中の空気から香りが立ちやすい。トウガラシを効かせた力強いソースに対し、麺のパワーも必要。だから回の咀嚼で枚の生地が重なり、しかも先が尖った麺を使うことでソースとのバランスがとれるんですね。ジェノヴェーゼの場合はソースがすべり落ちやすいのでやや平たい麺で、なおかつ麺同志にすき間ができるリングイーネを選ぶことで香りが立ちやすくなります」

上の品は見た目はまったく違うがどちらも原型は、ラツィオ生まれのパスタの定番「カルボナーラ」である。しかし、ありきたりの定番パスタに着地しないのが小林さんのやり方だ。

定番の「カルボナーラ」が、形を変えて進化

スパゲッティのほうは、霞ヶ浦育ちのクセがないホロホロ鳥の卵を使って、鍋の中ではなくボウルの中で、グアンチャーレ(豚の頬肉の塩漬け)とパスタと和えるのがポイント(写真参照)。こうすることで炒り卵のようにムラができず、クリーミィーかつ香りよく仕上げた。もちろん生クリームも必要としない。

もう一品のクーポラ型のカルボナーラは、「パスタはフライパンひとつでできる」という概念をくつがえした。セルクルを用いて、オーブンで焼く手法をとっている。麺は前述にあるように香りを立たせるために穴あきのマカロニに変えたが、材料はスパゲッティとほぼ同じ。ベーシックなカルボナーラを、いったん具材とソースに分けてそれぞれ独立させ、ともに同じ型に入れてオーブンで焼いて再構築。上から卵を使ったムースを流し、最後にカルボナーラの名前の由来となる「炭焼き人風」に粗挽きコショウをふる。ローマの郷土料理がドレスアップして変身した。

定番の乾燥パスタも基本の軸をくずさず技術とアイデアで変化をつけることで、乾麺の可能性が広がることがここで実証されたといえよう。

スパゲッティ・アッラ・カルボナーラ

ホロホロ鳥の卵とパスタは、鍋でなくボウルで和える

熟成したグアンチャーレの脂をオリーブオイルでじっくり煮溶かし、ペコリーノ・ロマーノとホロホロ鳥の卵と合わせる。卵を鍋ではなくボウルのなかでパスタと合わせたことで、卵黄のコクや香りがスパゲッティに風味を与える。

材料(1人分)
スパゲッティ 80g /ニンニク 1個/ペコリーノ・ロマーノ20g /グアンチャーレ 30g /ホロホロ鳥の全卵 1個/オリーブオイル 大さじ1/塩 適量/黒コショウ(粗挽き)適量

作り方
1. パスタをゆでるための湯を沸かし始める。
2. ホロホロ鳥の卵をボウルに入れて溶きほぐし、ペコリーノ・ロマーノを上から削る。
3. ニンニクを 2 ~ 3mm 角に切る。グアンチャーレを 2mm 程度に薄くスライスし、それを長さ 8mm × 2mm 程度の大きさに切る。
4. ①の湯が沸騰したら塩を入れてスパゲッティをゆで始める。
5. 鍋にオリーブオイルを入れ、③を入れて火にかけ、ニンニクの香りを出しつつ、グアンチャーレの脂を煮とかすようにゆっくりと弱火で加熱する。
6. グアンチャーレの脂が溶け出し白くなってきたら、②のボウルに中身を移し入れてかきまぜる。続いてゆであがったパスタの水気をよく切り、これを加えて全体をよく混ぜ合わせる。
7. ⑥を皿に盛り、黒コショウをふる。

マカロニのカルボナーラ仕立て

具材やソースをいったん解体し、クーポラ型に再構築

ポレンタ粉をつなぎにした卵と野菜のブロードのピュレをマカロニにあえ、グアンチャーレで包んでクーポラ型に焼いた。中身のソースとマカロニ、グアンチャーレ、別添えのソースが一体となり、より存在感のあるカルボナーラとして完成。

材料(1人分)
マカロニの詰め物
マカロニ 30g /ニンニク 3 片/エシャロット 1/2 個/ペコリーノ・ロマーノ 80g /ホロホロ鳥の全卵 1個/ポレンタ粉 大さじ1/野菜のブロード 150ml/グアンチャーレ 30g/オリーブオイル 適量/塩 適量/黒コショウ(粗挽き) 適量

作り方
1. マカロニを塩水でゆでる。
2. ニンニクは皮をむいて3回ゆでこぼし、エシャロットはスライスにする。
3. 鍋にオリーブオイルと②を入れ、弱火でゆっくり炒めて香りを出す。
4. ③にポレンタ粉と野菜のブロードを加え、ポレンタ粉がやわらかくなるまで煮る。
5. ④にペコリーノ・ロマーノを削ったものを加えてミキサーにかける。
6. ゆであがったマカロニを⑤で和える。
7. セルクルの内側にグアンチャーレのスライスをはりつけ、⑥を詰める。これを210℃のオーブンで約4分間焼く。

ソース
ニンニク 1片/エシャロット1/2 個/ポレンタ粉 大さじ11/2 /野菜のブロード 100ml/ ホロホロ鳥の全卵 1個/オリーブオイル 適量

1. マカロニの詰め物と同じくニンニク、エシャロットをオリーブオイルで炒めて、ポレンタ粉と野菜のブロードを加えて煮る。

小林幸司さん
1958年愛知県生まれ。89年渡伊。ウンブリア州「ヴィッサーニ」に入店後シェフに就任。帰国後、西麻布「マリーエ」、銀座「ラディーチェ」のシェフを務めた後、02独立。

text by Kanami Okimura / photographs by Yukari Nagase

本記事は雑誌料理王国2008年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は2008年10月号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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