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「リヨン」美食探索 前編


リヨン郊外にあるレストラン「ポール・ボキューズ」が、ミシュラン三ツ星を獲得したのは1965年のこと。偉大なるグランシェフの存在が大きいだろう。
夕暮れを過ぎ、活況を迎えたリヨンの夜の街を歩いた。

ブレスの鶏にシャロレー牛など豊富な食材の産地を控える街。

ローヌ=アルプ地方は、フランス南東部に位置し、パリと地中海を結ぶ街道のほぼ中間地点にある。面積、人口ともに国内第2位の地方だ。

豊かな土地に包まれたローヌ=アルプ地方の中心地

リヨンが「美食の街」と呼ばれるのは、周辺地域にある上質な食材やワインが控えているからといわれる。その代表的といえるのがブレス鶏だ。北部、ブルゴーニュ地方に隣接するブレス地方で、温暖湿潤な気候が生み出す良質なトウモロコシを飼料に育ち、厳格な品質管理で〝フランスの誇り〟とも呼ばれる。さらにはブレス地方の南に位置するドンブ地方は、池や沼が多い湿地帯で鯉やブロシェ(カワカマス)、カエルなどの産地だ。他にも広大な牧草地で育つシャロレー牛や、ブルゴーニュワインやフルム・ド・モンブリゾンチーズなど〝スター食材〟が集う。

実はリヨン市街には三ツ星レストランは1軒もない。「味だけで評価するなら三ツ星に相当するレストランはいくらでもある」と、リヨン市民は不満を漏らすというが、その事実こそが、「食を日々楽しもうとする」この街の魅力といえるだろう。

リヨンの美食を映し出すレストランなどを紹介する。

世界遺産のサン・ジャン大聖堂から北へ抜ける「サン・ジャン通り」には、新鮮なカキを販売する店も。


リヨン市の高級住宅街6区にある二ツ星レストラン ル・ヌヴィエム・アール

トップシェフとして食材にはことにこだわる。モダンキュイジーヌの名手は、キャビアやサンジャック(帆立)の使い方も絶妙だ。

ボキューズ・ドールの委員も務めるリヨン・ガストロノミーの旗手

リヨン市北部、高級住宅街6区に、1856年に開園したテット・ドール公園は、中央に池を配し、117ヘクタールの広い敷地を誇る市民の憩いの場だ。MOF(国家最優秀職人章)の称号を持つクリストフ・ルールさんが、公園近くの高級住宅地に店を開いてほぼ1年が経った。

ルールさんは2003年に、リヨン南西60キロのサンテティエンヌ近くの故郷、サン・ジュスト・サン・ランベールに同名の店を出し、オーナーシェフの道を歩み始めた。ミシュラン二ツ星を獲得し、ロワール県の名店として話題を集めたが、昨年、ガストロノミーの王都リヨンに移転した。移転後ももちろん2015
ミシュランで二ツ星を維持している。

MOFは、フランス文化の優れた継承者にふさわしい高度の技を持つ職人に授与される称号で、日本の人間国宝に当たる。ルールさんがこの称号を得たのは2007年。以来、その自覚を胸に、キッチンで自分の料理を進化させてきた。現代人にはときに重く感じるリヨン料理だが、ルールさんの皿は違う。味はしっかりしながら軽く、新しい時代を感じさせる。古典と現代のバランスよく、ひと皿ひと皿の完成度が実に高い。

創造的で彩りも美しい、季節感を大切にした料理。彼のコンセプトは厨房12人、ホール8人、そして誰よりもルール夫人が支える。天井の防音にまで配慮した店内の空気も、モダンながら落ち着いて心地よい。

クリストフ・ルールさん

ローヌ・アルプ地域ローヌ県ののどかな村に生まれ、2003年にル・ヌヴィエム・アールのオーナーシェフに。4年後にはMOFの称号を獲得した。店名を訳すと「第9芸術」。2013年には同タイトルの著書を出版。その序文はピエール・トロワグロが寄せている。

Le Neuvième Art
173 rue Cuvier 69006 Lyon
☎+33 (0)4 72 74 12 74
● 12:00~13:30
19:30~21:15
●日 ・月休
●コ ース 82€~
www.leneuviemeart.com
※メニューは季節によって変動します

3つの素材、シンプルな調理で表現する タカオ・タカノ

「pigeonneau de Pornic cuit sur os, jus à la royale(ポルニック産仔鳩のロワイヤル)」。ピジョンのジュの中に、フォワグラ、内臓を混ぜ込むシンプルなものだけに「手を抜くことができない」と鷹野さん。

「『ピジョンのロワイヤル』は、自分の料理に対する考え方をよく表していると思います」。と鷹野孝雄さん。できる限りシンプルに、飾り付けてものを隠すのではなく、良い食材、アソゼネの味わい、良い火入れを丁寧に表現する。鷹野さんは日本で2年修業しただけでリヨンに移ってきた。「難しいことをしなければ」と考えた時期もあったが、10年間、リヨンの二ツ星シェフ、ニコラ・ルベック氏と厨房をともにし、自信をつけた。「僕の皿には3つしかものを入れません。それは勇気のいることですが、そのやりかたが自分なんだと思っています」。鷹野さんは決意を胸に秘め、今日も厨房に立つ。

鷹野孝雄さん

1975年山梨県生まれ。1999年に料理の道へ。
2002年で渡仏し、ニコラ・ルベック氏の「クール・デ・ロジュ」に入った。2010年、ルベック氏の店を譲り受け、「ルベック&タカ」として翌年一ツ星。2013年4月に「タカオ・タカノ」で独立。翌年、一ツ星を再度獲得した。

Takao Takano

33 RUE MALESHERBES –
69006 LYON
☎+33 (0)4 82 31 43 39
● 12:00~14:00(火~金のみ)
19:30~21:00
●日・月休
●コース 昼33€、夜53€、83€
www.takaotakano.com

もうひとつの美食の街「ヴァランス」 ラ・カシェット

スコットランド産サーモンのマリネとベトラーブのジュレ 夏野菜とともに

ヴァランスが美食の街と呼ばれるのは、100年以上続く老舗レストラン「メゾン ピック」の存在が大きい。一時星を失ったが、4代目のアンヌ=ソフィー・ピック氏が三ツ星に返り咲かせたニュースを知る読者も多いだろう。

伊地知雅さんもピック卒業生のひとりだ。「アンヌさんの香りの使い方、素材をピュアに伝えようとする考え方は、自分のベースになっています」。30歳で独立、4年後に一ツ星を獲得した。「星は地方でやるうえでは必要だと思います。取ればまわりの目が変わります。業者から明らかにいいものが届くようになりましすし(笑)」。星がすべてではないが、持てば表現の幅は広がる。「ローヌ地
方の素晴らしい食材を発信したい」。伊地知さんは今、産地を訪ね歩く日々を続けている。

伊地知雅さん

1975年鹿児島県生まれ。1995年に東京「ル・グラン・コントワー」の菅沼豊明氏に師事。
2000年に渡仏し、「メゾン ピック」「ミッシェル・シャブラン」などを経て、2005年に「ラ・カシェット」で独立する。4年後に一ツ星を獲得した。

la Cachette
16 Rue des Cevenne
26000 VALENCE
☎+33 (0)4 75 55 24 13
● 12:00~14:00LO
20:00~21:30
●日・月休
●コース 昼30€~、夜55€~

料理王国=取材、文

本記事は雑誌料理王国249号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は249号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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