トップシェフに聞く。今知りたい野菜のこと「リストランテ カノビアーノ」


野菜を素焼きにすることで、素材本来の旨みを閉じ込める

「ウチの料理はオリーブオイルを使った日本料理」と公言する植竹隆政さん。調理に「いい野菜」は欠かせない。植竹さんが動物性油脂やニンニク、トウガラシを使わないのは有名な話。塩を除けば、野菜が持つ甘みや辛み、苦み、酸味などがこのシェフの味の核心を担っている。

今回の「野菜のこんがり焼きとカキのコトレッタ」は、そんな植竹さんが試行錯誤しながら考えた究極の野菜料理と言える。その根底には、ある危機感があった。「14年前に自分の店を持って痛感したのは、独自性でした。当時、日本料理とフランス料理はすでに確固たる地位を築いていましたから、普通にイタリアンをやっても、早晩店はつぶれると感じたんです。

日本料理にはだし、フランス料理にはソースがある。同じことをやってもダメ。だったら野菜の素焼きで勝負しよう、と思ったのが始まりでした」

旬を追いかけるから産地はいつも日本全国

素焼きというシンプルな料理だからこそ、素材の味わいが皿の旨さに直結する。当然、野菜そのものの旨さを追求することになり、産地は常にバラバラになる。生産者と直接会って話すことによって料理のヒントをもらうこともあり、彼らとのコミュニケーションは欠かせない、と植竹さんは話す。

[仕入れ先]
京野菜
有限会社永田屋
☎072-840-4741 FAX 072-840-3959
国内野菜、イタリア輸入野菜
クマガイ青果
☎03-5565-3519 FAX 03-5565-3509

適度に水分が抜けた野菜をオリーブオイルでコーティング

油分はいっさい入れないフライパンに、切った野菜を並べて焼いていく。調理というには、あまりにもシンプル。だからこそ、旨い野菜を求めて日本全国の生産者や仲介業者とコミュニケーションを図る。現在の取引先は、農家や仲介業者を含め、約10 軒。その地域や野菜の旬に合わせて、取り寄せる。ただし、タルティーボやラディッキオといったホロ苦系の野菜のおいしさは、イタリア産に軍配が上がるので、輸入野菜を使っているそうだ。

野菜のこんがり焼きとカキのコトレッタ
カボチャ、カブ、レンコン、ミニダイコン、ギンナン、ミョウガ、ホウレンソウ、九条ネギの素焼きに、サラサラのパン粉をまぶして焼いたカキを添えたひと皿。調味料はほんのわずかの塩だけ。にもかかわらず、ひと皿のなかに野菜自体がもっている甘み、辛み、苦みなどの旨みが重なりあって、味わい深い。

「今は旬が過ぎてしまったから使っていないけれど、最近気に入っているのは高知産のトマト。海に面した畑で栽培されていて、太陽の強い日差しと海風に当たって育つ。このトマトは、旨みが凝縮されて絶品。最近では、四国がシチリア島に見えますよ」と植竹さんは笑う。

鮮度を保つために、例えば葉野菜ならすぐに20分ほど水あげをし、ペーパータオルに包んで冷蔵庫に入れるなど、保存には気を遣う。「ひと手間をかけることで、味が全然違ってきます」

まずは素焼きして、野菜の水分を飛ばす。「最初からオリーブオイルで焼いてしまうと、水分とオイルが混ざってベチャとした仕上がりになります。でも、余分な水分を飛ばしてから少量のオリーブオイルをかけると、オイルが膜をつくって野菜の旨みが外に逃げない。だから、野菜の旨みがしっかり味わえる」

今回は、サラサラのパン粉をまぶして焼いたカキを添えて、野菜との旨みのコラボを楽しむひと皿に。素材の旨さが、舌と腹に染みる。

適度に水分が抜けた野菜にオリーブオイルを少量かける

フライパンには、いっさい油を入れないのがポイント。野菜は焼いているうちに水蒸気が上がり、水分が抜けていくのが分かる。適度に水分が抜けた野菜にエクストラヴァージンオリーブオイルをかけ、旨みを閉じ込める。

葉野菜は最後に火を通す

他の野菜を素焼きしてエクストラヴァージンオリーブオイルをかけたら、葉野菜を入れて火を通す。最後に塩を少量ふって味を整える。野菜を取り出したあとに油が残らないくらいが、油分の適量。

Takamasa Uetake

1963年、神奈川県生まれ。東京調理専門学校卒業後、24歳で単身渡伊。3年間の修業の間に、オリーブオイルとイタリア野菜のおいしさに開眼する。帰国後、1999年に「カノビアーノ」をオープン。野菜の深い味わいを生かした料理には定評がある。

リストランテ カノビアーノ
CANOVIANO

東京都渋谷区恵比寿西2-21-4
代官山パークスビルB1
☎03-5456-5681
● 12:00~14:00LO 
18:00~22:00LO(日・祝は~21:00LO)
●火休
●コース 昼3500円~(税別)
夜7000円~(税別)
●50席
www.canoviano.net

山内章子=取材、文 佐々木実佳=撮影

本記事は雑誌料理王国232号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は232号発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。掲載されている商品やサービスは現在は販売されていない、あるいは利用できないことがあります。あらかじめご了承ください。


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